幕間 ユルン高原の戦い

ドラクロア家にて。

オデロとエリックが話をしている。

「ドルマ帝国がアイルバーグではなく、バルトブルグに兵を集めているとのことですが狙いは何でしょう。」

「わからん。バルトブルグからエール王国に攻め入るにはバルト峡谷を抜けなければならない。道は狭く、モンスターも出やすい。兵站確保の面から敬遠されてきたが、今回はわざわざそちらを選んできた。何か策はあると考えておいた方がいいだろう。」

「そうですね。ですが、我が領からは遠いため、連れていける兵が少ないのが不安材料ですね。」

「今回の戦いはプルートウ侯爵が中心になるだろう。プルートウ侯爵は歴戦の勇士だ。そこは心配しなくてもいいだろう。問題はドルマ帝国がどのような策を用意しているかだが。ここで話をしても何もわからないだろう。情報収集を行い、どのような状況にでも対応できるように備えるだけだな。」

「準備は整っております。兵たちの士気も高く問題ありません。予定通り明日出発できます。」

「わかった。油断せずにいこう。」



数週間後。

ユルン高原にて。

「父上、全員配置につきました。」

「ドルマ帝国の弱兵など蹴散らしてやりましょう。」

「エリック、アルガス。今回は嫌な予感がする。少しでもおかしな点があれば報告を上げよ。」

「「はっ。」」


「父上も歳をとり過ぎたか。臆病風に吹かれるなど、ドラクロア家の当主としてあるまじき姿だ。」

「ふ~。アルガス、父上を批判するようなことを言うな。誰かに聞かれたら、処罰ものだぞ。それに父上の発言は弱気から来ているわけではない。今回のドルマ帝国の侵攻は不自然なところが幾つかある。

警戒して、し過ぎるってことはない。」

「ふん。兄者はお利口さんだな。どんな時でも『父上の言う通り』だからな。」

「お前も父上の凄さはわかっているだろう。あまりくだらない発言をするなよ。」

「わかっているさ。」


「ドルマ帝国軍が動きだしました!」

「慌てる必要はない!迎え撃つぞ!」


ついにドルマ帝国軍との戦いが始まった。

今回の戦いではエール王国軍の中心はシーザー=プルートウ侯爵が担っている。

三軍に別れ、中央をプルートウ侯爵、右翼をドラクロア家など各貴族の領軍、左翼を王国の直轄軍、という陣容になっている。

兵力は同等。

地の利はこちらにある。

多数の貴族による寄せ集め軍の右翼だが、オデロ=ドラクロアの指揮により連携を保ちながら動いている。


ドルマ帝国軍とぶつかったが、どんどん押し込んでいる。

「ハッハッハッ!弱過ぎて欠伸が出るぞ!」

アルガスが叫ぶ。

「前に出過ぎだ。少し下がれ。」

オデロが全軍を下がらせる。

「父上、今こそ好機です!ご指示を!」

「ならん!ヤツら下がり過ぎだ。こちらを誘い込もうとしている。狙いはわからんが、相手の期待通りに動いてやる義理はない。」

「くっ!」

オデロの指揮に不満を募らせるアルガス。


積極的に攻めないオデロの指揮により、右翼は膠着状態に陥っていた。


その時、

「父上!プルートウ侯爵軍とドルマ帝国中央軍が一緒にこちらに迫っています!」


「そういうことか。

全軍退け!

隊列は気にするな!

全力でアッパス砦まで駆け抜けろ!」

「退け!退け!退け!!」


完全に道が塞がれる前に駆け抜ける。

「アルガス!穴をこじ開けろ!」

「ウオォォォ!!!」

アルガスが叫びながら前に出る。

もはや陣形も何もない、ぐちゃぐちゃの大乱戦になっている。



ギャォォォォォォォ!!!!!


「「「「ドラゴンだ!!」」」」

多数のドラゴンが上空で乱れ飛ぶ。

あまりの光景に全員の足が止まり、上空を見上げた。

「足を止めるな!命の限り走り続けろ!」

オデロの檄が飛ぶ。


大混乱の戦場をエール王国軍が必死に走り続ける。ドルマ帝国軍は混乱からの回復に時間がかかっている。


ギャォォォォォォ!!!

ドラゴンの咆哮が戦場に響きわたる。


ドラゴンたちが次々と着陸してくる。

戦場は混乱が最高潮に達している。

見たこともないドラゴンたちを前にどうしていいのかわからずパニックになる兵士たち。

ただただ逃げるために走り続けたエール王国軍の兵士が戦場を抜け出していく。


「アッパス砦だ!

そこまで何も考えずに走れ!」


ドルマ帝国軍の追撃はあるものの、軍をドラゴンの集団に分断されたため、組織的な動きができない。

軍の合流を優先するのか、追撃を優先するのか、ドラゴンへの対処を優先するのか。あまりの事態に思考力を奪われた兵士は立ちすくむ。



泥にまみれ、血にまみれ、エール王国軍の兵士たちは続々とアッパス砦にたどり着いていった。それは行軍と呼べるものではなく、ただ散り散りに逃げた兵士たちが同じ場所に集まっただけの状態であった。

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