ハワードの疑問
「お前は何者だ?」
「ウィリアム=ドラクロア。それ以上でもそれ以下でも無いよ。」
「あのドラクロア家の一員だ。優秀なのだろうと思っていた。だが、お前はそういう想像を遥かに越えている。」
「誉めてもらえるのは嬉しいけどね。」
「生徒の情報は我々も収集する。特にお前に関しては依頼の件もあったから、念入りに調べたよ。」
「結果は?」
「99%問題無し。それが公式な報告書の内容だ。ただし、今回調査を依頼したのが俺の古くからの友人でな、そいつ曰く、報告書には書けないが、おそらく尾行しているのはバレていただろう。わかった上で知らないフリをされていたと思うとのことだった。」
「そう思った理由は?」
「根拠も証拠も何も無い。ただの直感だそうだ。だから報告書には何も書けなかった、ということだ。
しかし、その後も継続してお前の身辺調査をしばらくはやってもらった。ただ継続しても、なんの追加情報も取れないままだった。
そこで、授業中にお前の部屋に忍び込もうとしたらしい。」
「それはさすがにやり過ぎじゃない。」
「そうだな。いき過ぎがあったことは謝罪しよう。しかし、ヤツは部屋に入れなかった。ドアノブに手を伸ばした瞬間、強烈な殺気に射ぬかれて、逃げ帰ったらしい。」
「勝手に部屋に入るのは犯罪だからね。」
「その通りだな。
ただ、ヤツは正騎士と戦っても引けをとらない実力者だ。それが殺気だけで心をへし折られたということが問題だ。本人はドアノブに触れた瞬間に殺されると本能的に感じたらしい。そんな化け物じみた実力者がお前の部屋を守っていたという事実が俺としては気になるところだ。」
「その人は僕のことを調べるのは諦めたのかな?」
「どうすればお前の情報を引き出せるか想像もできないらしい。
俺としても、ヤツよりも優秀な諜報員は知らない。ヤツが無理だった以上、これ以上調べる方法はない。」
「ハワード先生。僕に深入りするのはオススメしませんよ。」
「1つだけ聞かせてくれ。
お前のことは信用してもいいんだな。」
「そうですね。
僕の敵にならない限り、大丈夫ですよ。」
「もし敵になった場合は?」
「考えない方がいいこともありますよ。少なくとも僕は学園とも、エール王国とも敵対する気はないです。もちろん、ハワード先生とも。余計なことさえしなければね。」
「わかった。もうお前のことを探ることは止めにする。」
「アンドレイさんにも僕を探るのを止めるように伝えてください。
もし街中で僕の尾行をしたいなら、最低でも今の3倍は距離を取らないとバレると思ってください。今後、もし僕のことを探っていることを感じた場合、相応の罰を受けて貰います。」
「余計なことをしないように釘を刺しておこう。」
「最低でも、僕を尾行したいならレベルを後33は上げるように伝えてください。」
「・・・わかった。
・・・だが俺もヤツの今のレベルまでは知らないぞ。なぜ知っているんだ。」
「謎は謎のままにしておきましょう。」
「不本意だが、受け入れるしかないんだろうな。それが俺たちとお前の差なんだろう。
呼び止めてすまなかった。今日は助かった。ありがとう。もう休んでくれ。」
「わかりました。失礼致します。」
ウィルは自分のテントに帰って行った。
残されたハワードはぽっつりと呟いた。
「俺は一度も『アンドレイ』という名前を言わなかった。しかもアンドレイは中級職『スパイ』でレベルは30台後半のはず。つまり『レベルを33上げろ』というのは中級職の限界まで上げろということ。
尾行したアンドレイはいつの間にか、『名前』、『職業』、『レベル』までウィリアムに調べられていた訳か。
俺に知っていることを開示したのがそれだけだから、ウィリアムの性格を考えれば更に多くの情報を持っているんだろうな。
アンドレイはこの国ではトップクラスの諜報員だぞ。それが何も調べられず、逆に丸裸にされている。
化け物だと思っていたが、俺の想像も及ばないレベルだな。そんな男が勇者と同時期に現れる。女神様は何を望まれているんだ?」
翌日。
3日目は戦争時の陣形についての実践練習がされた。
いつも、選択科目の用兵術ではコンパクトアーミーが僕らの指示で動いてくれるけど、実際の戦場で指揮官の指示が徹底されることは難しい。特に練度の低い部隊ではできない。
その難しさを感じられただけでも意味はあるんじゃないかな。
クラリスが指揮官役になり、伝令役の生徒が指示を伝える。
特に戦闘職、非戦闘職も分けていないので、みんなの動きはバラバラ。
進む部隊、下がる部隊、どれもクラリスの思い通りに動かない。
そして午後に検証とハワード先生による解説が行われた。
クラリスは相当悔しそうだった。
父上の軍なら、父上が指示を出せば自分の手足のように動くんだけどね。
最強のドラクロア軍と寄せ集めの学生を比較したら可哀想だね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます