ビルギット探索

ウィルは『ライティング』の魔法で周囲を照らしながら駆け続けた。

ハワード先生もすぐ後ろについて来ている。


さすがはA組の先生。

夜の森でこれだけ動けるのはすごいね。


かなり奥まで入ってきた。

一度立ち止まり、気配探知に集中する。

ビルギットは重騎士だ。森での活動には適さない。この夜の森での正しい対応は動かないことだ。しかし、動かない人間を探知するのは難易度が高い。


ウィルは、

「ハワード先生、耳を塞いで伏せてください。」そう言って、

「ビルギット!!!!!」

スキルを使って大声を響かせた。


耳を澄ます。

微かに声が聞こえた!

方角から考えて、先生とは考えられない。

「2時の方向、およそ2km。おそらくビルギットだと思います。」

「わかった。お前のペースで進んでくれ。ついて行く。」

「わかりました。」


そう返事をしてウィルは駆け出した。

でも本当の全力だとハワード先生をぶっちぎってしまうので、自重している。


しばらく走り続けると、気配探知に反応があった。そちらに向かって走ると、すぐにビルギットが帰られなかった理由がわかった。

どうやら崖から滑り落ちたんだろう。

返事が出来たんだから、そこまで重傷ではないとは思うけど。


「こっちだ!」

ビルギットの声が聞こえた。

元気そうで良かったよ。

崖下に光弾を撃ち出しながら、

「ビルギット、無事か?」

と声をかけた。


「ウィリアムか!助けに来てくれたのか!」

「ハワード先生も一緒だよ。怪我はない?」

「足を痛めてる。崖が登れないんだ。」

「わかった。そっちに行くから待ってて。」


「ハワード先生、ビルギットのところまで行ってきます。少し待っていてください。」

「わかった。気をつけろよ。」

「了解!」


軽く返事くださいして、一気に崖を駆け降りる。

「うわっ!」

「お待たせ~。」


「いきなり落ちてきて大丈夫なのか?」

「もちろん。とりあえず、これを飲んで。」

「これは?」

「ポーションだよ。足の怪我ぐらいなら、すぐに治るよ。」

「悪いな。帰ったら料金は支払うよ。」

「気にしなくていいよ。」


ビルギットがポーションを飲み干すと、

「痛みが消えたよ。これなら歩けるよ。」

「良かった。じゃあ『浮遊』の魔法を使うから、じっとしててね。」


ビルギットの体がふわりと浮き上がり、そのまま上昇していく。

ふわふわと上昇していき、崖の上に着くと、ハワード先生が腕を引っ張った。


それを見届けて、『浮遊』は解除した。

ウィルは崖をすいすいと駆け登り、瞬く間に合流した。


「ウィリアム、合図の魔法を上空に撃ち出してくれ。」

「わかりました。」


ウィルは大きな光弾を上空に撃ち出した。

5秒ほど上空で輝き、消えた。


「ビルギット、歩けるな。」

「はい。大丈夫です。申し訳ございませんでした。」

「事情は戻りながら聞く。

ウィリアムが先頭、ビルギット、俺の順番で歩いていく。いいな。」

「わかりました。」


帰り道はビルギットも一緒だったので、足元を照らしながら、ゆっくりと歩いて帰った。

薄明かりの中で森を駆け抜けるのは、相当の技術がいるからね。


歩きながら、ハワード先生がビルギットに事情を聞いていた。


ざっくり要約すると、

ドラコに脅されて1人で森の奥に入り、『殴り猿』の群れと戦闘になった。

木々の上を飛び跳ねる猿たちに、森の中では不利と判断して森を飛び出したところ、崖から滑落してしまった。

幸い足以外は負傷せず、『殴り猿』も追いかけてこなかったため、しばらく息を潜めることにした。とのことだった。


「判断が甘いな。森でモンスターと戦うのはダンジョンで戦うのと全然違う。いつもは勝てていた相手に環境の変化を考慮せず殺されるのは、新米冒険者がよく犯すミスだ。気をつけるように。

脅した、脅していないは証拠が無いので厳罰とはならないだろう。ただ不用意な単独行動をしたということで、チーム全員にマイナス評価をすることになる。覚悟しておくように。」



ゆっくりと歩いて、野営地まで戻ってきた。

他の先生たちは既に戻っており、ビルギットは念のため保健の先生に預けられた。

待っていたドラコともう1人にはハワード先生が、

「明日、状況確認を行う。朝食後、2人で俺のところに来い。今日はビルギットは戻らん。明日の朝に再度体調をチェックしてから解放することになる。わかったか。」

「「はい。」」

「ではテントに戻れ。」

「「わかりました。」」



「ウィリアム、お前のおかげで早く見つかった。協力に感謝する。」

「クラスメイトだからね。緊急時には当然協力するよ。それよりも僕に協力を依頼して良かったの?学生だよ。」

「かまわない。生徒の命に関わる事態に、解決できる能力を持った人間がいれば、どんな立場の人間であっても協力を依頼するさ。」


「さすがだね。でもどうして僕がビルギット探索で役に立つと思ったの?」

「俺の中では、お前の評価はトップレベルだ。『学生の中で』ではなく、『すべての人間の中で』だ。」

「そこまでの力を見せた記憶は無いけど。」

「これでも人を見る目はあるつもりだ。

お前が周囲に合わせて力をセーブしているのはわかっている。そこから逆算して想定している。」


「僕の本気はどの程度だと思ってるの?」

「伝説の勇者がいれば、お前のような実力なのだと思っている。」

「伝説の勇者ね。それは僕じゃなくて他の子に期待してよ。」

「ふっ、そういう受け答えが既に異常なんだよ。お前は何者だ?」

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