冒険者ギルドの恒例行事
僕とカレンがベンチで座っていると、4人組の冒険者が寄ってきた。
「突然失礼致します。お二人は本日冒険者登録をなされたのですか?」
「は、はい。」
カレンが正直に答えた。
「やはりそうでしたか。冒険者の指導者として、我々を雇いませんか。
ダンジョンは危険がいっぱいです。我々の指導に従えば、安全に最短コースでレベルアップできますよ。
これは未来有望な若者のためのサービスなので格安で提供致しますよ。」
「人に指導できるほどのランクなのかい?」
「ご心配無く。我々はBランクパーティーの一員です。トップクラスの指導を約束しますよ。」
「そうかい。でもパーティーランクは高くても、個人のランクはどうなんだ?わざわざパーティーランクを言ったってことはBより低いんだろうけど。」
「ちょっと坊っちゃんは黙ってて頂けますか。我々がスカウトしているのはお嬢様なのでね。」
「わ、私はウィル君に色々教えてもらっているから、指導はけっこうです!」
カレンが勇気を出して断った。
「お嬢様、何事も最初が肝心です。間違った知識を教えられると、矯正に時間がかかりますよ。」
「ウィル君は間違っていません!」
「そういうことだから、さっさと、どっかに行ってくれるかな。」
僕が手でシッシッとやると、冒険者の1人が怒りをあらわにした。
「あまり調子に乗らない方がいいですよ。
世間知らずの子どもが、大人相手に舐めた態度をとっていると、優しい俺たちでも感情的になってしまうぞ。」
「そうかい。なら、もう少し感情のコントロールを学んだ方がいいんじゃない。
こんなことで感情的になるなんて未熟過ぎるね。
なんなら、僕が指導してあげようか?」
「テメェ!
調子に乗るなよ!」
こんな安い挑発に引っ掛かるなよ~。
と思いつつも、更に煽る。
「貴族相手に、テメェ呼ばわりかい。
ちょっと牢屋で反省した方がいいかもね。」
「クックックッ、これだからガキが調子に乗るなって言ってるんだよ。
Bランクパーティーになれば、冒険者ギルドは貴族様相手でも守ってくれるのさ。
この時期に冒険者登録するってことは、田舎の弱者貴族の子どもだろ。
田舎の弱者貴族が巨大組織の冒険者ギルドに勝てると思っているのか。」
「なら、試してみるかい。
そこの君、悪いがギルドマスターを呼んできてくれるかい。」
僕は金貨を近くにいる冒険者に投げ渡し、ギルドマスターの呼び出しを依頼した。
「おいおい、ギルドマスターを呼び出せば俺たちがビビるとでも思ったか。
バカめ、これだからガキの浅知恵は。
お前が追い込まれるだけだぜ。」
「そうか。そうなるといいな。フフッ。」
「くっ、その舌を切り落としてやろうか!」
「あんたらの腕じゃあ、無理だよ。僕の舌を切りたいなら、もっとレベルを上げてから出直してきな。」
「もう我慢ならねぇ!」
4人が殺到する。
でも遅いよ。
1人の腕を掴んで、もう1人にぶつける。
1人は投げ飛ばして退場してもらう。
残ったリーダーっぽい男を転ばして、その上に座る。
「どうやら戦闘の指導は僕の方が上手にできそうだね。」
「くっ、くそ!」
お尻の下から悔しそうな声が聞こえる。
「なんの騒ぎだ。」
ようやくギルドマスターが登場。
なかなか恰幅のいいおじさんだね。
「ギルドマスター。
このガキが無茶苦茶暴れたんだ。」
「子どもの尻の下で何を言っても説得力無いよ。」
僕が退いてあげると、冒険者はようやく立ち上がった。
「話を聞かせてもらおうか。」
ギルドマスターが声をかけてきた。
「聞いてください。
冒険者になったばかりみたいだから、俺たちが色々教えてやろうと親切に声をかけたら、このガキが女の子にいい格好しようとして暴れたんです。」
「好き勝手言ってくれるね。
でも、子どもに簡単に負けちゃうような冒険者が、何を言っても説得力無いよ。」
「俺たちは『最硬の盾』のメンバーですよ。俺たちとどこの誰だか知らないガキ。
どっちを信じるべきか一目瞭然でしょ。」
「ギルドマスター。
ここでどういう選択をするかが、あんたの人生を左右するよ。」
ギルドマスターは僕らのことをじっと見て、
「君たちは学園の生徒だね。名前を聞かせてもらおうかな。」
「ウィルだ。」
「カ、カレンです。」
「カレンさん。
彼らの話は本当かね?」
僕ではなく、カレンに声をかけるギルドマスター。
「ち、違います。先に襲いかかってきたのは、その人たちです。ウィル君は自分の身を守ろうとしただけです!」
「なるほど。どうやら、『最硬の盾』のメンバーが嘘をついたようだね。
不快な思いをさせて申し訳なかったね。」
「ちょっと待ってください!
俺たちより、そんなガキの言うことを信じるんですか!
そんなことをすれば『最硬の盾』が黙ってませんよ!」
「ふ~、君たちは全然状況が見えていないようだな。
君たち4人を相手にできる実力をこの年で身に付けている。
それだけの教育を与えることは、相当な家格でなければできないことだ。
それに私が名前を尋ねても、家の名前をあえて言わなかった。
言えば一瞬で状況がひっくり返るようなランクなのだろう。
残念ながら、君たちに味方する気は一切無いよ。」
完全に切り捨てたギルドマスター。
なかなかの判断力だね。
さすがに王都でギルドマスターを務めるのは伊達じゃないってことかな。
「ギルドマスターの賢明な判断に感謝します。ただ、こうした輩が増長しないような指導を期待したいね。」
「自らの力不足を恥じるばかりです。
彼らには相応の罰を与えておきます。」
「今後の手腕に期待しているよ。
そろそろドロップアイテムの査定も終わった頃だろうし、失礼するよ。」
「ご期待に添えるよう、力を尽くします。」
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