泥んこダンジョン

泥んこダンジョンは王都から歩いていける、一番近いダンジョンだ。

篝火ダンジョンは日帰りするなら乗馬推奨の距離にある。


この2つは対称的な位置付けにある。

金銭的に余裕があり、レベルアップを優先したい者は篝火ダンジョンに行く。

お金に余裕が無く、泥だらけになってでも小銭を稼ぐ必要がある底辺の冒険者が泥んこダンジョンに行く。


泥んこダンジョンに出てくるモンスターの皮などは、見た目は悪いが水に強い為、旅人や行商人の荷物入れやテントなど幅広く使われており、需要がある。推奨レベルの割には高く買い取ってくれる。

しかし、泥だらけになってしまい、それを洗い流さないとまともに街に入れない為、敬遠する冒険者が多い。



学生寮の門のところでカレンが待っていた。

ロングソードにブレストアーマーを装備した、いつものスタイルだ。

どちらもミスリル合金製で、貧乏騎士爵の娘が装備できるような安物ではない。

上位の騎士なんかが装備する高級品だ。

カレンはスタイルが良いから、様になるね。


「ごめんね、待った?」

「だ、大丈夫です。さっき来たばかりなので。」

「準備は問題無さそうだね。」

「は、はい。」

「じゃあ、走ろうか。」

「はい、、、えっ。」

「行くよ。」

「えぇぇぇ~。」

僕が走り出すと、カレンは戸惑いながらもついてくる。


しばらく走ると、カレンが遅れだしたので、鎧を脱いで、鎧と長剣は僕が持つことにした。

それでもバテバテで、遅れながらも、なんとかついてきた。


ダンジョンに着いたところで、カレンは座りこんでいる。

スタミナ回復の特製ドリンクを飲ませながら、声をかける。


「これからも走れる時は走った方がいいよ。

いっぱい走っていると、『持久走』とか、『スタミナ回復』なんかのスキルを取得できるからね。スキルがあるのと無いのでは全然違うよ。

常にスキル取得を心がけて行動することだね。」


カレンはコクコクと頷くけど、まだ喋れないみたいだ。



カレンが落ち着いたのを確認して、装備を整えてダンジョンに突入した。

カレンはレベル3だからね。

まだそんなに深くは行けない。

序盤から積極的に戦ってもらう。

勇者だし、装備も良いし。


開始してすぐに、カレンは全身泥まみれになってました。

おもいっきり転んだからね。

泥で足場が悪いなか、泥から飛び出す大きなカエルモンスターに体当たりされて転んでた。


「泥の中に潜んでるモンスターの気配を探って。」

「体勢を崩さない。バランスをとって。」

「剣を振るう時は、一振り一振りに集中して。振り回さない。」

「魔法はスピード。発動までの時間を縮めて。」


どろどろになりながらも、カレンは急成長している。

レベルも上がっているけど、戦闘経験を積み上げてているのが大きいかな。


モンスターも、

スライム、カエル、カニ、ヘビ、ヒル、タコ、どんどん強くなってきた。

大量のヒルに集られた時は、カレンが絶叫していた。

ヌルヌルのヒルの大群が体に貼り付き、吸血されるのは悪夢だろうね。


途中で何度かキャンディやドリンクをカレンにあげた。

カレンは顔を手もどろどろだったから、直接口に入れてあげると、カレンが真っ赤になっていた。

照れる姿も可愛いね♪


もちろん、普通のキャンディやドリンクじゃないよ。キャンディはMP 回復、ドリンクはHP やスタミナの回復。

どちらも超高級品。効果もお墨付きだよ。



結局、夕方まで戦い続けて、ダンジョンを出た。

「疲れました~。もう動けないです。」

「お疲れ様でした。ちょっと目を閉じて。」

「えっ、なんですか?」


しゃべるカレンを無視して、洗浄魔法をかけると、泥だらけだったカレンが一瞬できれいになった。

「これでオッケー。」

「えっ、こんなこともできるんですか。

ならもっと早く使ってくださいよ。」

「ダンジョン内で使ったって、すぐに泥んこになっちゃうじゃん。MP は有限だからね。」

「それはわかりますけど~。」

「じゃあ、鎧と剣を渡して。走るよ。」

「ありがとうございます。でも、もうすぐ日没ですよ。走るのは危なくないですか?」

「大丈夫。たぶん転けるけど、回復魔法があるし、そのうち『夜目』スキルを取得できるんじゃないかな。

そしたら、月明かりでも不自由無く行動できるようになるからさ。」


「ウィル君は厳し過ぎます。。。」

「そうかな?レベルが低い間にスキル取得を進めると、後でスキルレベルが上がるチャンスが多いから、最後には大きな差がつくよ。」

「うっ、確かに。」


「じゃあ、さっさと出発するよ。」

僕が走り出すと、カレンも遅れて走り出した。



「つ、着いた~。」

バタッ


カレンは、道中、何度も転びながらも、必死でついてきた。

ダンジョンを出た時にきれいにしたけど、もうどろどろになっている。

体力の限界だったんだろうね。

道端に倒れこんで動けなくなっている。


仕方ないな。

「スリープ」

僕が呪文を唱えると、カレンは一瞬で眠りに落ちた。

眠り込んだカレンを肩に担いで、寮の部屋まで転移した。


「お帰りなさいませ。ウィル様。」

「ただいま。

クラスメイトのカレンだ。きれいにして、ベッドで眠らせてあげて。」

「承知しました。

ただ、ウィル様。年頃の女の子を荷物みたいに肩に担ぐのは止めてあげてください。

女の子は優しく抱き抱えられたいものなんです。」


「寝てるからわからないじゃん。」

「寝ててもです!」

「了解しました。」


女心というのは難しいね。

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