選択科目

ついに学園の授業が始まった。

最初の週は、午前中はクラス毎に授業を受け、選択科目はプレ授業が行われているのを好きに見学に行っていいという流れになる。

選択科目は1時間を1コマとして、1日3コマ選べる。科目によっては2コマとか3コマを使用する場合もあるので、その組み合わせを考えるのが難しい。


「ウィルはもう選択科目は決めたのか?」

「いや、まだだよ。レオンは決めたの?」


「だいたいはな。俺は『交渉人』っていう、内政や外交向きの職業だから、戦闘系の授業は全部除外してるんだ。そうすると、それほど選択肢は多くないんだ。」


「確かに戦闘系の授業が多いからね。」

「ウィルはドラクロア家だから、戦場で役に立つような授業がメインにするのか?」

「基本的にはね。だから用兵術は取ろうと思ってるだ。でも用兵術は2コマだから、残りの1コマをどうするか迷うんだよね。」


「そうか。今日はどうするんだ?」

「今日は用兵術2コマと古代魔法考察1コマを取ろうと思ってる。レオンは?」

「俺は他国情勢1コマ、実践マナー1コマ、算術上級1コマを取ろうと思ってる。算術上級は上の学年になってからにした方がいいか悩んでるんだ。

そんなことより、古代魔法考察なんて全然聞かない授業だぞ。

そんなマニアックなのを選ぶのか?」


「とりあえず試してみるだけだよ。」



そして午後。

まずは用兵術の授業。

貴族は有事に先頭に立って戦うと言われるが、何も考えずに突撃だけする訳ではない。

特に指揮官と呼ばれる人たちは戦場全体のことを考えて兵を動かす。

その考え方を学ぶ科目だ。

人気科目のため、成績次第では落選することもあるらしい。


担当はハワード先生だ。

「本格的な授業は来週からだ。今週は授業内容の簡単な説明だけだ。

まずはこれを見てくれ。」


小さな手のひらサイズの人形を出した。

「これは『コンパクトアーミー』という魔道具だ。様々な装備や役割を与えることができる。

授業ではこの『コンパクトアーミー』を自分の部隊に見立てて実践を行う。

数に限りがあるから、順番に指揮をしてもらう。残りの生徒はそれを俯瞰で見て、分析をしてくれ。

今日は簡単な設定の仕方を教えた後、代表者による試合を2試合実施する。」


いきなり試合をするんだ。

実践的だね。


「まず、この『コンパクトアーミー』の基本性能は全て同じだ。性能は与えられた装備と役割によって変動する。

武器は剣、槍、弓、杖が代表的だな。

平地で隊列を組むなら槍、取り回し易いのは剣、弓なら遠距離、杖なら攻撃魔法や回復魔法。

防具は兜、帽子、全身鎧、軽鎧、服、大盾、小盾などがある。

基本的に防御力が高いほど重くて、素早さが低下する。

動き易さと防御力の両立はシステム上できない。バランスを取るか特化型にするかは自由だ。

役割は一般的な戦闘兵、斥候兵、輸送兵、工作兵、魔法兵などがある。

戦闘兵は装備によって重装歩兵、弓兵など、自由に変わる。

コンパクトアーミーに装備と役割を割り振ったら準備は完了だ。

後は目的に合わせて指示を出すだけだ。事前命令と追加命令がある。離れた兵には伝令を使わないと当然命令は伝わらない。」


「ここまでがコンパクトアーミーに関する基本的な説明だ。

次に戦闘に関してだが、決められた目的の達成を目指すことになる。

よく行われるのは、

『拠点攻防』『遭遇戦』『城攻め』などがある。

『拠点攻防』は両者がそれぞれに拠点を設置し、先に相手の拠点を落とした方が勝ちだ。拠点防衛と拠点攻略にどう戦力を割り振るかなど、複雑な攻防が見ものだ。

『遭遇戦』は拠点は無しで、全員参加の総力戦になる。指揮官を先に討ち取った方が勝ちだ。一点突破や包囲陣形など、陣形が勝敗を分けることが多い。

『城攻め』はNPCの拠点をどれだけ早く攻略するかを競い合うタイムトライアルだ。一斉に行っても順位をつけやすいのが特徴だ。NPC の代わりに教師が行う場合もある。変化形で城防衛と言って、どれだけの時間、自身の拠点を守れるかを競う場合もあるぞ。」


「まずは少し触ってみろ。

その後、『拠点攻防』100対100を実施する。誰にやらせるかはまだ決めていない。誰でもできるように準備しろよ。」


面白い魔道具だね。

今の技術では修理はできても、新しくは作れないらしい。


しばらくすると、

ハワード先生が、

「よし、そろそろ準備はいいな。

よしウィリアム。ドラクロア家の実力を見せてみろ。」

「わかりました。」


「ウィリアムと対戦したい者はいるか。」

ハワード先生が声をかけると、

真っ先に

「私にやらせてください。」

手を挙げたのはマルコだった。

「わかった。やってみろ。

エール王国を代表する武門の家。

ドラクロア家とプルートウ家の戦いか。

初戦としては申し分ないな。

2人はそれぞれ指揮官席に移動しろ。」


ずっと睨んでくるけど、

これからやるのはコンパクトアーミーを使った模擬戦だよ。

殺気を出すのは止めて欲しいね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る