幕間 試験官カタリナ

私は今年から、学園で教員として働くことになった。

当面はベテラン教員のハワード先生のサブとして働くことになる。


学園ではA組とH組では全然学習環境が違う。

A組、B組、C組には副教員がつき、学生の勉強をサポートする。副教員は私のようなまだまだ経験不足の新任教員が担当することになる。

クラスのレベル毎に明確な差を設けることで、学生の競争心を煽る仕組みになっている。



ハワード先生のサポートとして、筆記試験の監督官をすることになった。

筆記試験の監督官の仕事は難しいことではない。試験中はカンニングが行われないように見張り、試験後は模範解答を見ながらチェックをするだけだ。



試験を開始してようやく半分くらいの時間になった頃、1人の受験生が早々に解答用紙を提出して部屋を出ていってしまった。

解答用紙を見ると、すべて記入されている。

さすがに一瞬で解答の正誤を判別することはできないけれど、諦めての退出で無いのは確実だ。


学園の試験は難しい。

試験の目的として順位を明確にすることがあるため、あえて難解な問題を数問入れている。

ミスをしない、プラス、難問を解けるか、それが評価になる。

今回の入学試験にも卒業試験レベルの問題が数問混ざっている。


解答用紙の署名を見ると『ウィリアム=ドラクロア』と書かれていた。

さすがはドラクロア家ということだろうか。

優秀な兄弟という噂は聞いたことがあるが、私の想像を超えているのかもしれない。


筆記試験終了後、採点作業をして、先ほどの予感が確信に変わった。


唯一の全問正解。


「ハワード先生、

ウィリアム=ドラクロアは半分の時間で全問正解でした。

さすがドラクロア家ということでしょうか。」


「もう卒業レベルを軽くクリアしているということだろうな。兄のエリック=ドラクロアも首席卒業だったが、ここまでの出来ではなかった。私が知る限り、速度も加味すれば、入学試験の最高の得点だろうな。」


「明日の実技試験はどんな結果になるんでしょうか?」

「さあな。やってみなければわからんな。

頭脳が売りなのか、実力も伴うのか。

明日の実技試験後のミーティングですべてハッキリするだろう。」

「明日が楽しみですね。」

「俺もウィリアム=ドラクロアの実力を見てみたいな。」



そして、翌日。

実技試験終了後、試験官全員によるミーティングが行われる。

職業系統別の試験は、それぞれ試験内容が異なるため、その結果のバランスを調整することが目的だ。


各系統の試験結果が提出された。

一番ボリュームがあるのが戦闘職だ。

戦闘職担当の責任者ウルフ先生が口を開いた。

「今年は豊作だった。

上級職も多かったんじゃないか。」


学園長が応えた。

「上級職は8人だ。例年よりも多いな。期待の持てる学年になりそうだ。例の件もある。偶然ではないのかもしれないな。」


「しかも、今年は過去最高記録が出ました。

測定できる限界に近い数字でした。

このまま成長すれば、測定の限界を超えるかもしれません。」


「それは誰かな?」


「ウィリアム=ドラクロアです。

さすがはドラクロア家。

他の受験生にも優秀な成績はありましたが、彼の記録の前では霞んでしまいますね。

文句なしの満点でしょう。」


「実技でも満点なんですか!」

「実技でも?」


ついつい口にしてしまった。


「筆記試験でも満点でした。それも、かなり早いタイミングで途中退出もしていました。」

ハワード先生が補足してくれた。


「う~む。実技、筆記どちらも満点ならば、ウィリアム=ドラクロアが間違いなく、首席になるのであろうな。

ただ、今年はクラリス王女が入学される。

成績も問題無くA組になるレベルだ。

入学生代表はクラリス殿下に依頼する。

異議はないな。」


「「「「はい。」」」」

試験官たちの声が重なる。


「それと、例の彼女の件だが。

国王陛下より、この3年で、

一人前に育てること。

信頼できるパーティーを作ること。

この2点を求められている。

A 組で優秀な仲間に囲まれた環境で育てる。

特例措置だが、理解して協力して欲しい。」


「学園長、彼女の成績はH組レベルです。生徒たちも不審に思うのでは?」

「『鑑定』を使って彼女の職業を調べる生徒も出てくるかもしれませんよ。」

「一度特例措置を認めれば、自分の子どもも特例を認めろと圧力をかけてくるかもしれません。」


試験官たちは口々に不安を指摘した。


「皆が感じる不安はもっともだ。

しかし、状況が状況だ。

成功させるしかないのだ。

陛下から『偽りのチョーカー』を預かり、彼女に装備させている。

鑑定しても上級職『高位魔剣士』と認識されるだろう。

最初は能力の低さが目立つだろうが、レベルが上がれば、実技は間違いなくトップクラスになるだろう。

学力は勉強するしかない。

早急に追い付けるようにサポートして欲しい。

頼んだぞ。ハワード先生。」


「わかりました。

万が一、彼女の職業がバレた場合はどうしますか?」

「バレた相手と人数によるな。

少数なら、協力者とするのもありだろう。

最重要案件だ。逐一報告してくれ。」


「まずは周囲に追い付けるように、全力を尽くします。」


「宜しく頼む。カタリナ先生も宜しく頼みますよ。」

「承知致しました。」

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