ローザリア姉さん

母上とアルガス兄さん、アルマが旅立って数日。

ようやく父上とエリック兄さんの挨拶回りも終えて、明日には帰ることになった。

その後、ローザリア様はフルブライト家の護衛に守られながら、ドラクロア家まで送られてくる。

エリック兄さんと一緒に帰った方がいい気がするんだけど、そういうしきたりになっているらしい。



エリック兄さんが帰る前に渡したい物があったから、兄さん夫婦が揃っているところに、会いに行った。


「ごめんね。明日の準備で忙しい時に。」

「大丈夫だよ。私もローザリアも準備は終えているからね。ウィルともしばらく会えなくなるから、会いに来てくれて嬉しいよ。」

「エリック様はよく嬉しそうにウィリアム様の活躍を自慢されるんですよ。」

「止してくれよ。ローザ。」


うん、新婚だから仕方ないんだけどね。

美男美女のイチャイチャを目の前で見せられるのも困るね。


「エリック様がいつも褒めてらしたので、本当にそんなに凄い方がいるのかと半信半疑だったのですが、一瞬で父上に認められた手腕を拝見して、エリック様のおっしゃる通りの方なのだと確信致しました。」

「そんなに褒められるとむず痒いですよ。」


「まあ、ウィルは周囲の評判なんて気にせず、自由に生きればいいさ。」

「大丈夫だよ。僕はいつも通りにしかできないから。」


「ハッハッハッ、それもそうだね。

ウィルはどこまで行ってもウィルだね。

さてと、

それで今日はどうしたんだい?

何か用事があったんじゃないのかい?」


「今日は2人に渡したい物があってね。僕からの結婚祝いだよ。」

「ありがとう、ウィル。」


僕は2つのアイテムを出した。

「これなんだけど、2つでセットになるアイテムなんだ。

エリック兄さんのはアクセサリーとして装備する用の腕輪だね。

ローザリア姉さんのは魔道具なんだ。」


「どういった魔道具なんですか?」


「これはね、腕輪を装備した人がどこにいても無事かどうかわかる仕組みになっているんだ。

兄さん、腕輪を着けてみて。」


「これでいいかい。」


「じゃあ、ローザリア姉さん、魔力を流してみて。」

「こうかしら?」

「そうそう。今、青く光っているでしょ。

これはHP が半分以上あるってことなんだ。

そして半分を割り込むと黄色。

4分の1を割り込むと赤色。

死亡すると白色。

色でエリック兄さんの状態がわかるんだ。」


「素晴らしいですわ。

これでエリック様の無事がいつでも確認できるのですね。」

「ありがとう、ウィル。

これでローザリアを安心させられるよ。」


「喜んでもらえて良かった。

エリック兄さんの腕輪にも安否確認以外の効果を多少つけておいたから、少しは役に立つと思うよ。」


「どんな効果なんだい?」

「物理防御力と魔法防御力を少し上げる効果と、HP が半分を下回ると腕輪にセットしてある魔石を消費して、ヒールが自動で発動するんだ。魔石がセットできるのが最大6個だから、回数は気をつけてね。」


「戦場ではなかなか回復を確保できないから、とても助かるよ。」



「2人に喜んでもらえて良かったよ。」

「最高のプレゼントだよ。ありがとう、ウィル。」


「ところで、ウィリアム様。

明日、学園の寮に入られるんですよね。

準備はお済みですか。」

「ええ、もちろん。

手続き諸々は既に終わっています。

明日、入寮して、週末の入学試験に備えるだけです。」


「ウィルなら、立派な成績を修められるさ。

気負わず、ウィルの思う通りに取り組んできなさい。

そうすれば、結果は勝手についてくるよ。」

「はい。ドラクロア家の人間として恥ずかしくない結果を残してきます。」


その後、しばらく雑談をしてから、エリック兄夫婦と別れた。



翌日、出発する父上とエリック兄さんを見送ってから、僕はソニアを伴って、学園に向かった。


正式名称は『国立高等教育学園』。

長過ぎるため、みんな『学園』と呼んでいる。


エール王国に産まれた貴族の子どもはみんな、10歳になると3年間学園に通う。

国内の貴族は全員通過する道だ。


一定以上の貴族は家庭教師を雇い、自前で教育を受けさせるが、生活に困窮している貴族も少なからずいる。

そこで、最低限の教育を受けさせて、国の考え方を理解させる。

そして卒業後、それぞれの地で国の指針に従って統治を行うことを目的としている。


有力貴族にとっては、自らの教養の高さを自慢する場所であり、貧乏貴族にとっては、唯一の学びの場になるため、貴重な3年間となる。

また、貴族も家を継げるのは1人のみ。

次男・三男は就職先を探さなければならない。

そういった家を継げない貴族には、学園での成績が就職先のランクに直結するという厳しい現実もある。


学園に通う学生はそれぞれ理由は異なるが、結果を出さなければならないということには変わりはない。


高位貴族が貧乏貴族の子どもに負ければ、まともな家庭教師をつけられなかったとか、よほど頭が悪いのだろうとか、言われてしまう。

逆に貧乏貴族の子どもが好成績を残し、卒業後、家を再興することもある話だ。


僕としては恥ずかしくない成績を取れれば、後はせっかくの学生生活を思いっきりエンジョイしたいだけだと思っている。


週末の入学試験が楽しみだね!

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