結婚式

あっという間に結婚式当日。

お昼から王都の大聖堂で結婚式が行われる。

大聖堂で結婚式を行えるのは貴族でも、ほんの一握りだ。

結婚式には国王陛下も参加されるとあって、警備も厳重だ。

その後、結婚パーティーが開かれて、参加者たちとエリック兄さんは挨拶をこなし続けるらしい。


僕は気軽な立場だからね。

せっかくのパーティーを楽しもうぐらいにしか考えてない。

それと、カシムとソニアもエリック兄さんの晴れ姿が見たいと言っていたので、こっそり連れてきている。


ムラーノが作ったデザートはロールケーキと名付け、今回のパーティーで披露される。

クリームに羽イチゴのジャムを混ぜ込んだノーマルタイプ。

クリームに洋酒に漬け込んだドライフルーツを混ぜ込んだ、大人向けタイプ。

2パターンを用意してくれました。

甘酸っぱい羽イチゴがアクセントになって、とても美味しかった。

さすがムラーノ♪


なお、会場で出される飲み物はすべて、僕が大量に持ち込んだ氷でキンキンに冷やされている。

これって本来は相当なレベルの贅沢なんだよね。




結婚式が始まると主役のエリック兄さんとローザリア様が入場された。

どちらも絵画のような美男美女。

その美しい光景に、周囲からは嘆息が漏れていた。


大聖堂を前に永遠の愛を誓い合うエリック兄さんとローザリア様。

すべてが芸術作品のようだった。


結婚式は問題無く終わり、パーティーが始まった。


父上、母上、エリック兄さん、フルブライト公爵夫婦、ローザリア様は参加者に順番に挨拶回りをしている。

よく、覚えられるね。僕には無理だよ。


アルガス兄さんは学園時代の友人たちと合流し、楽しそうにしている。


僕とアルマは特に用事もないので、会場内で料理を楽しむことにした。

どれもこれも豪華な料理だったけど、ムラーノの料理と比べると、少し物足りないかな。

高級食材を使っているだけって感じ。


ムラーノが作ったロールケーキは大人気だった。沢山の女性が列をなしていた。

女性の付き合いで食べた男性も洋酒が効いた大人の味に驚いていた。



お腹も膨らみ、退屈にしていたところ、3人組の男の子が寄って来た。

僕と同年代ぐらいかな。

このパーティーに参加しているぐらいだから、ほどほどに上位の貴族の子どもなんだろうね。


「君はドラクロア伯爵家のご子息かな?」

「そうですが、あなたは?」


そう質問を返すと、取巻きが、

「なんと!マルコ様を知らないのか!」

「高名なプルートウ侯爵家の麒麟児と評判のマルコ様だぞ!」


知るか! とも言えないので困っていると、


「止せ、私もまだまだと言うことだな。王都の外までは名が広がっていないらしい。」

「さすがマルコ様。寛大でいらっしゃる。」


自分が優秀だとひけらかしたい男の子とその太鼓持ちか。

普通なら無視だけど、『プルートウ侯爵家』の人間を無視するのは、さすがにまずい。


「マルコ様のご尊顔を存じ上げず、自らの不明を恥じ入るばかりです。

後学のためにマルコ様の武勲をご教授願えませんか。」


「勉強熱心なのは良いことだ。

俺の凄さを教えてやれ。」

マルコが太鼓持ちを促すと、


「マルコ様は上級職『暗黒騎士』になられたんだぞ。」

「その上、既にレベル20。この国でもトップクラスの実力者なのだ。」


・・・つまり、上級職『暗黒騎士』に運良くなれて、親のおかげでレベル上げも相当進んでいるということだね。

それは運が良かっただけ、親が金をかけただけ、なんだけどね。

さすがに素直な感想を伝えるとまずいので、


「なるほど。マルコ様のような方がいらっしゃれば、エール王国の未来は明るいですね。」

「その通りだ。俺が戦場に出るようになれば、今のようにドラクロア家も大きな顔はできなくなるわ。」


さすがに聞き捨てならないな。

少し黙ってもらおうか。

僕はこっそり魔法をかけて、『興奮』の状態異常にする。


「さすがマルコ様。

ですが、国王陛下の治世は天下に安定をもたらしております。

マルコ様の活躍の場面は余り無いかもしれませんね。」


「ふざけるな。敵が攻めてこないなら、こちらから攻めるまでだ。」


「ですが、国王陛下は無用な出兵は国力を損なうと考えてらっしゃいますよ。」


「だったら、無能な国王に代わって、俺が軍を率いて、他国をすべて併合してやるさ!」


こんな発言が会場内で響いた。

一瞬であたりが凍りつく。


「お止めください!マルコ=プルートウ様!」

僕の制止の声も続いて響いた。


その場の変化にも気付かず、続けるマルコ。


「止める必要などあるものか!

いずれ俺の時代が、」

マルコに駆け寄った大人数人が口を押さえて、そのまま会場の外に運び出した。


その場に残った男性。

おそらくマルコの父親の部下だろう。

彼が話かけて来た。

「大変失礼致しました。マルコ様は誤ってお酒を飲んでしまったらしい。初めての飲酒で酩酊していたのだろう。この場に相応しく無い発言があったことを謝罪致します。」


無理のある説明だけどね。

いくら子どもの発言とはいえ、このパーティー会場には高位の貴族が多数おり、国王批判を声高にしてしまったのだ。

父親のプルートウ侯爵にはかなり厳しい罰則もあり得るだろう。


後でどうなるかは知ったことじゃない。

エリック兄さんの結婚パーティーでドラクロア家を批判する時点で許さないって決めたからね。

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