結婚式準備

特に問題も無く、当初の予定より大幅に期間を短縮して、到着できた。

ドラクロア家は王都にも邸宅を持っている。


オデロの場合、従軍期間が長いため、特殊だが、一般的な地方領主は、王都にも邸宅を持ち、領地と王都を半年サイクルで移動している。


ドラクロア家の場合も、王都の邸宅にも召使いたちが多数おり、わざわざ召使いを連れて移動する必要はない。



屋敷に到着すると母上とエリック兄さんが出迎えてくれた。

「父上、長旅お疲れ様です。」

「予定よりも早いわね。何かトラブルでもございましたか?」


「いや、特に問題はない。

ウィルが馬車を改造してな。かなり速度が上がったんだ。」

「まあ!ウィルはそんなことができるようになったのね。しばらく会わないうちに成長したわね。」

「ありがとうございます。母上。」


「それで、結婚式の準備は滞りなく進んでいるか?」

「はい。現在、予定通り準備は進んでいます。」

「ただ相手がフルブライト公爵令嬢でしょう。どれだけ準備をしても安心できないわ。」


「そうだな。くれぐれもドラクロア家の名を貶めるような失敗の無いようにな。」

「はっ。」


まあ、エリック兄さんに限って、大事な結婚式で失敗するようなことは無いだろうけど。

気になるから、後で落ち着いて話を聞いてみるかな。



その日の夜、

僕はエリック兄さんの私室を訪ねた。


「珍しいね。ウィルが夜に私の部屋に訪ねて来るなんて。」

「結婚式の準備で大変そうだからね。僕に手伝えることはないかと思ってね。」


「ありがとう。

ウィルのその優しさが嬉しいよ。

式の準備は母上も手伝ってくださっているからね。問題はないよ。」


「エリック兄さん。本音で話をしてよ。

何か不安があるんでしょ。」


「ふ~。ウィルには勝てないな。

不安はある。

しっかり情報収集はした。

格式、流行、どちらもしっかりおさえたつもりなんだけどね。

どうしても何か足りないって気がするんだ。

でも何がどう足りないかがわからないから説明できないし、なんでもかんでもと手を出せば、統一感が無くなるからダメだし。」


「たぶん、今のまま、結婚式を行っても十分成功すると思うよ。

良かったら僕にデザートを任せてくれないかな?

僕なりに結婚式を盛り上げるよ。」


「ウィルがデザートを用意してくれるのかい!是非お願いするよ。

ウィルが何を用意してくれるのか楽しみだよ。

後で出席者の人数と他のメニューを伝えるからね。」


「よ~し。エリック兄さんの期待に応えられるように頑張るぞ~!」



ということで、料理人のムラーノに相談に来ました。


「ドラクロア伯爵家とフルブライト公爵家の結婚式のデザートですか!

やりましょう!

これほどの注目の場で私の作ったデザートを食べて頂けるのは光栄です。」


「ムラーノが乗り気で良かったよ。

因みに、貴族のパーティーで出される料理ってどんな感じなの?」


「今回のようなパーティーで出される料理はある程度のルールがあります。前菜、スープ、メインの肉料理・魚料理、デザートなどなど、料理の出す順番や種類は概ね決まっています。

その中で、いかに高価な食材を使うか、

いかに貴重な食材を使うか、それをどう調理するか、それを競いあい、目立とうとするのが貴族のパーティー料理の特徴です。」


「貴族の料理って感じだね。

デザートはどんなのが王道なの?」


「基本は『高価な砂糖をどれだけ使えるか』を競っています。強烈な甘さになるので、男性はデザートに手を出さない人が多いですね。

後は果物はすぐに傷むので、高額な報酬を支払って、本来は現地でしか食べられない物を用意するなんてのもあります。」


「とにかくお金使ってますアピールがメインなんだね。

う~ん、

やっぱり料理は味で勝負でしょ!」


「さすがウィル様。

我々は味で参加者を驚かせましょう!」


「そうだね。

でも美味しいだけじゃ無くて、メッセージも込めたいんだ。

フルブライト公爵領の名物みたいな食べ物ってある?」


「そうですね~、

羽イチゴが有名ですね。春から夏に採れる果物で、大量に採れるから、ドライフルーツやジャムに加工して、秋冬も食べられています。デリケートで傷みやすいので、生の羽イチゴはフルブライト公爵領内でしか食べられません。」


「そうか。よし。

羽イチゴのジャムかドライフルーツを使ったデザートにしよう。」

「生の方が貴重で喜ばれますよ。」

「それじゃダメなんだよ。」


「わかりました。それでは羽イチゴのジャムかドライフルーツを使ったデザートを考えてみます。

他に条件はございますか?」


「目新しくて、でもマネできそうなデザートにして欲しいな。

それと、男性にも食べてもらいたいから、バリエーションを2つか3つ作って欲しいな。」


「わかりました!

やってみましょう。

実は考えていた新作スイーツがあるので、それを結婚式用に変更してみましょう。」


「因みに、どんなスイーツなの?」

「小麦粉、卵、牛乳などで作ったスポンジ生地に、クリームを乗せて、クルクルと巻いて完成です。使う素材は普通ですが、断面が渦巻き状になって、個性的なスイーツになると考えています。」


「面白そうだね。

時間は無いけど、完成させてよ!」

「もちろんです。お任せください。」

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