王都への旅路

アデードから王都までは馬車で14~16日ほどかかる道のりだ。

僕の転移魔法なら一瞬だけど、今回は家族で馬車移動をすることにした。


父上、アルガス兄さん、アルマ、僕。

従者や護衛の騎士たち。

結婚式に使う物や、フルブライト公爵にお渡しする物など、荷物もけっこう多い。


道中、山賊が出ることもあるけど、騎士が囲んで、ドラクロア家の旗が掛かった馬車を襲う愚か者はいないだろう。


唯一の問題は僕の毎日のレベルアップだ。

最近は邪龍ガルガイア・獣王キルベルモス・始原花リーゼカイセルをはしごすることで、所要時間は2時間を切ったけど、それでも2時間は必要だ。

みんなが寝た後にこっそり抜け出してレベルアップをすることにした。



「行ってくる。後のことは任せたぞ。」

「お任せください。道中お気をつけて。」

父上がバルデスに声をかけて出発した。


僕らの馬車には、僕と父上とアルガス兄さん、アルマの4人が乗り込んだ。

その後ろにも馬車が2台続いている。

そして、周囲には騎乗した騎士たちが囲んでいる。


この世界に来て、初めての馬車は想像以上に揺れて乗り心地が良くない。

更に遅い。

行者に聞いたら、これでも貴族向けの高級馬車で、揺れもマシらしいけどね。

アルマと楽しくおしゃべりしながらの移動を想像してたのに、五月蝿いし、揺れるしで、落ち着いて話もできない。



ということで、出発した初日の夜。

馬車を改造することにしました。


でこぼこの道を走るとそのでこぼこがダイレクトに揺れにつながる。

タイヤに緩衝材になるモンスターの皮を巻き付ける。


更に馬車本体に魔法陣を2つ刻む。

1つは魔石を消費することで、馬車の重量を大幅に軽減する簡単な魔法陣。


もう1つは特殊な魔法陣。閉鎖空間を切り離して音と振動を伝わらないようにしている。でも、完全にゼロにしてしまうと、外で何が起きているかわからないようになってしまうから、微妙には伝わるようにしている。そのバランスが難しかったね。


最後に馬用のアクセサリーを作成。

素早さの上昇、スタミナの回復、2つの効果がある『赤兎馬マスク』を馬に装備させれば完成。


これでちょっとは馬車の旅も快適になるかな。



翌日。

「ウィル。

馬車に何をしたんだ。

昨日までと完全な別物だぞ。」


「ちょっと快適になるように昨日の夜いじったんだけど、どうかな?」


「確かに快適だ。これほど快適な馬車は初めてだ。

それにスピードも大幅に上がった。おそらく日程もかなり短縮できるだろう。

後で加工方法を部下に教えてくれ。」


「もちろん。構いませんよ。ただ専門知識が必要なので生産系の職業の方をお願い致します。」

「そうだな。今回は騎士と従者しかいない。現物を持って帰ってアデードの職人に調べさせるか。」

「それがよろしいかと。」



その夜、

「ウィル兄さま。これから剣の稽古をつけてもらえませんか?」


「ちゃんと指導係がついているんだろ。

どうしてだい?」


「型の稽古ばかりでつまらないの。」

「型は大切だよ。」

「もちろん、わかってるわ。

ちゃんと練習しているし、筋が良いって言われているのよ。

でも、たまには実践的な訓練もしたいの。

いいでしょ?」


「う~ん。

まず、アルマは回復職だからね。

本来はアルマが直接剣を抜く場面が訪れないのがいいんだよ。

アルマが剣を抜いている時点でパーティーとしては大失敗なんだからね。

アルマの剣は相手を倒すためではなく、時間を稼ぐのを目的にするべきなんだよ。」


「はい。ウィル兄さま。」


「そうだね。じゃあ、味方の到着を待つために相手の攻撃を数秒しのぐことを目的とした練習をしてみるかい。」


「お願いします!」


「ウィル、偉そうに解説するのはいいが、アルマに教えられるだけの技量はあるのか?」

アルガス兄さんが口を挟んできた。


「では、アルガス兄さんが襲ってくる強敵を、私がアルマの役をしましょう。構いませんか?」

「いいだろう。手加減はするが、怪我をしないように集中するんだぞ。」


「ありがとうございます。

アルガス兄さん、宜しくお願い致します。」


僕が声をかけると、アルガス兄さんが駆け出した。

僕はアルガス兄さんにショートソードを向け、構える。


アルガス兄さんは初手に鋭い突きを放ってきた。

僕は軽く剣をはたきながら、体をズラしてかわす。


アルガス兄さんは

「ほう、やるではないか。」

と呟きながら、横薙ぎに剣を振るう。

僕はバックステップで避ける。


アルガス兄さんは止まることなく、袈裟斬りに斬りつける。

僕はショートソードで受け流す。


そんなやり取りを数合続けたところで、

「それまでだ!」

父上の声が響いた。

「良い訓練だった。だが、これ以上は怪我をしかねない。そろそろ止めておけ。」


僕とアルガス兄さんは剣を収めて、

「「はっ。」」

とだけ応えた。



僕がアルマに剣捌きを教えているのを横目に、父上は年配の部下に声をかけた。

「どう見る?」

「アルガス様の攻撃はさすがです。

あれを防ぎきれる騎士は少ないでしょう。

それを完璧にさばいたウィリアム様が上手過ぎるのです。」


「私も同意見だ。今見たことは胸にしまっておけ。」

「承知致しました。」

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