幕間 カシムの決意

ウィリアム様と旅に出て、およそ2年が経った。

2年間の報告をするために、ウィリアム様、ソニアと一緒に伯爵家の屋敷に戻って来ている。

報告と言っても、ダンジョンの発見、開拓村の成功は既にオデロ様もご存知なので、家を出る時にした約束を守るための形式的なものだ。


たった2年で、冒険者としては冒険者ランクA まで上り、未開地に千人規模の街を作り、ダンジョンは既に国内有数の人気。

ウィリアムの街との商売のために、途中のアデードやウッドエッジ等の街も、泊まる商人が増えて活気に満ちている。

これ程の偉業を、これ程の短期間で為した人はいないだろう。

オデロ様もお喜びになられていることだろう。


私もオデロ様からお呼びがかかっている。

ウィリアム様が家を出る時に、その護衛として選ばれた。


その時に密約があった。

ウィリアム様のことを2年間支えて、多少なりとも報告できるような成果が出れば、ウィリアム様を再び家に迎え入れ、私はその対価として、見習いを卒業し、正式な騎士にして頂けることになっていた。


おそらく、この密約に関して、お話があるのだろう。


コンコンコン

「カシム、参りました。」

「入れ。」

「はっ。失礼致します。」


執務室の中にはオデロ様とバルデス様がいらっしゃった。

「楽にしてくれ。」

「はっ。」


「まずはカシム、2年の間、ウィリアムをよく支えてくれた。ありがとう。

領主として、父として、ウィリアムがここまで成長できたことを嬉しく思う。

お前の助けがなければ、ここまでの成果は出せなかっただろう。」


「すべてはウィリアム様の才覚によるもの。私はただ従っただけでございます。」


「さてと、本題に入ろうか。

カシムには我が騎士団の正式な騎士になってもらいたい。相当腕を上げたと聞いている。その力を騎士団で発揮して欲しい。」


「恐れながら、辞退させて頂きたいです。」


「ほう、理由を聞かせて貰おうか。」


「我が剣はウィリアム様に捧げたいと考えております。誠に申し訳ございません。」


「私よりもウィリアムを取ると申すのか?」


「・・・はい。私の全てをウィリアム様に捧げます。ご無礼を御許し下さい。」

「クックックッハッハッハッ、わかった。今日からカシムはウィリアム個人に仕えよ。これからもウィリアムのことを頼むぞ。」


「有り難き御言葉。」


「カシム、下がってよいぞ。」

「はっ。失礼致します。」




カシムが去った後、

「ソニアに続いてカシムもか。」

「娘が失礼致します。」

「構わんさ。どちらかと言えば、良い気分だ。いずれ子供に抜かれる日が来るとは思っていたが、こんなにも早く来るとはな。」


「ウィリアム様には人を惹き付ける力があるのでしょうね。」

「最初に私を超えていくのはエリックだと思っていたが、ウィリアムだったとはな。それもこんなにも早く超えていくとは。」


「ウィリアム様は今後どのように?」

「どうもしないさ。ウィリアムは自由に飛び回る鳥のような男だ。私が道を示さずとも、私の想像を超える遥か彼方へ飛び立つだろう。ドラクロア家はエリックが継ぐ。そこに迷いはない。」


「差し出がましい事を申しました。」

「構わん。バルデスは引き続きドラクロア家を支えてくれ。」

「勿体ない御言葉です。」


「これから忙しくなる。しばらく家を空けることになる。留守は任せたぞ。」

「承知致しました。」

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