幕間 頑張れディーン

ウィル様のせいで、武道会に出場することになってしまった。

しかも優勝を課せられている。

もともとはダンジョン街のメンバーはレベルが高過ぎるから、参加を自粛することになっていたんだがな。


予選はダンジョンでレベル30相当のモンスターとの戦闘だ。

上級職のレベル50オーバーの俺にとっては軽い相手だな。

ただし優勝はするが、目立ち過ぎるのはダメだ。ギリギリ優勝できたって雰囲気を醸し出せって言われている。

ダンジョン街のメンバーがいつも優勝するようじゃ、外からの冒険者が集まらなくなるからな。


「久しぶりだな、ディーン。

バルベンからいなくなったと思ったら、こんな辺境に隠れていたのか。」

「ドラゴか。なんで高名な『悠久の栄光』のメンバー様がこんな辺境まで来てるんだ?」

「お前には関係無いだろ。最強パーティーには最強パーティーの仕事があるんだよ。」


「そうか、確かに関係無いな。なら俺にも関わらないでくれ。お前にかまっている暇は無いんでね。」

「くっ、まあいい。俺の優勝する姿を遠くから指を咥えて見ていな。」

「そうだな。優勝できることを遠くから祈っとくよ。」



大量のモンスターが迫り来る。

俺は盾を使いながら、敵をいなす。

隙をついて確実に1体ずつ仕留めていく。


かなりの参加者が脱落していく。

レベル30相当のモンスターと戦おうと思ったら、こちらもレベル30以上は必要だ。

賢い参加者は早々に諦めて、後ろのセーフティゾーンに下がっていく。


中には無謀にも挑み、大怪我を負う馬鹿な参加者もいた。

そんな連中は警備隊のメンバーが救出し、ミリアに渡して、治療してもらった。


どんどん参加者は減っていき、最終的には20人程度が残った。

レベル30相当のモンスター相手に20人も残るのはかなり異常だな。

日頃からこの街でダンジョンに挑んでいた冒険者達のレベルがかなり上がっているようだ。

半分以上はウィリアムの外街を本拠地にする冒険者だった。

結局モンスターを倒した数が少なかった参加者を落として、本選出場者を決定した。

外街に住む連中は問題を起こして追放されるのを嫌い、素直に受け入れていた。



翌日は本選。

立派な闘技場が用意されている。

初戦の相手はカーン。

ウィリアムの外街に住む冒険者だ。武器は槍使いだから、ミスリルスピア狙いかな。


「ディーンさん。中街最強って噂は聞いています。戦えて光栄です。」

「お互い良い試合をしよう。」


「それでは両者、位置について。」

審判はカシムが務めることになった。

出場者が死亡しないように間近でサポートするのが目的だ。

ただ、出場者より声援を集める審判ってどうよ。

特に女性からの黄色い声援はカシムに集中している。

まあ、女子はむさ苦しいおっさん同士の闘いより、イケメンだな。


「はじめ!」

カシムの合図とともにカーンが駆け出した。

一気に距離を詰め、そのまま鋭い一突き。

ディーンは盾で受け流す。

突きを逸らされたカーンは止まれ無い。

そこにディーンがシールドバッシュを放つ。


体勢を崩し転んだカーン。しかし、すぐに立ち上がり、構える。

ディーンも無理に追撃をせず、慎重に構える。

今度はカーンが細かい突きの連打で、中距離戦を展開する。

しかし、ディーンの盾に阻まれ、ダメージが与えられない。

盾の隙間を縫って足元を狙うカーン。

ディーンはその隙間を逃さず、槍をかわして体当たりを決める。


吹っ飛ばされて、転がるカーン。

なんとか起き上がり槍を構えようとした時にはディーンの剣先がカーンに向けられていた。

「参りました。」

「それまで!」

カシムが試合終了を告げる。


「ありがとうございました。」

「良い攻撃だったぞ。」

がっちりと握手を交わして、別れた。

あいつはまだまだ強くなるな。



次の相手はドラゴだ。

『悠久の栄光』のメンバーで俺とよく似た剣と盾を使う闘い方だ。

違いは『悠久の栄光』の誘いに乗ったか断ったか、だ。

ドラゴはその後、大きくレベルを上げ、早々に中級職に転職を果たした。


「まさかディーンが本選に残れるほどレベルを上げていたとは驚きだよ。」

ニヤニヤしながら話しかけるドラゴ。


「お前と会わなくなって久しいからな。少しは俺も強くなったさ。」

「成長したディーンに現実の厳しさを教えてやるよ。」

「お前に教わらなくても、お前以上に知ってるさ。」


「それでは両者、位置について。」

「はじめ!」


カシムの合図とともに両者、ジリジリと距離を詰める。

ドラゴが上段から剣を振り下ろす。

ディーンが盾で受け止めて、剣を横薙ぎに振るう。

ドラゴも盾で受け止める。


両者互いに盾を巧みに操り、攻撃が直撃しない。戦いが膠着するかに見えたが、形勢はディーンに傾いてきた。

ディーンの一撃一撃が力強く、ドラゴが受け止めきれなくなっていった。

次第に片手では支えきれず、両手で盾を持つ状態にさせられた。

そうなると反撃ができず、ディーンが一方的に攻撃を続けるだけになっていった。


耐えきれなくなったのはドラゴではなく、その盾だった。

大きく変形し、まともに使える状態ではなくなった。

盾を捨て剣を両手持ちで挑みかかったが、ディーンの守りを崩せず、ドラゴは敗退した。


「くそ!なんでだよ!」

「俺も強くなったんだ。それだけだ。」

「俺は認めないからな!」

「認めることから始まることもあるんだぜ。」



これで残り4人。

残ったヤツは全員、何かしら景品は貰えるわけだ。

ただ俺は絶対に優勝しないといけないからな。

ウィリアムナイフは確実に確保させてもらうぞ。



その後、ディーンは順当に勝ち上がり、優勝できた。

ディーン優勝の瞬間、ディーンに賭けていた中街の住人と、ミレーヌを中心に事情を知るメンバーから、大きな歓声が上がった。


その後、ディーンがナイフを受け取ると、ウィルから説明を聞けることになった。

せっかくだから、ミレーヌ、ハンスも同席することにした。


「でだ、この謎のナイフはなんなんだ?」

「正式名はファイナルエッジだよ。」

「素材は何でできてるんだ?鉄のナイフに似てるけど、微妙に違うかったぞ。」


「僕もまだまだ修行が足りないな~。

鉄に似せるために、ドラゴンの牙にヒヒイロガネとアダマンタイトを混ぜた合金なんだけどね。」

「なんて素材使ってるんだよ。。。」


「鑑定阻害系の特殊効果をつけてあるわよね?鑑定できなかったわ。

他にも何かあるの?」

「ミレーヌもまだまだ修行が足りないね。鑑定阻害レベル9がついているから、鑑定レベルが10ないと鑑定できないよ。

鑑定阻害はテスト的につけただけで、本命は『ファイナルストライク』ってスキルだよ。」


「なんなんだ?その『ファイナルストライク』って?」

「使用者の残りMP の99%を使用して、強烈な一撃を放つスキルだよ。

イメージは魔法使い系の職業の護身用って感じかな。

接近されて、魔法が間に合わない時の切り札として使えるよ。」


「じゃあ、魔法使い系じゃない俺が使っても意味が無いってことか。」

「そうでもないよ。ディーンってほとんどMP 使わないから、勝負どころで強い一撃を放つのに使えると思うよ。」

「そうか、まぁナイフとして十二分に優秀だから、サブウェポンとして使わせてもらうよ。」

「是非使ってよね。」



後日、ファイナルストライクをテストしたディーンは、その威力から、絶対に使わないでおこうと心に決めたらしい。。。

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