幕間 トーマスの暗躍

「ドラクロア伯爵閣下、お目通りをお許し頂き、誠に有難うございます。」

「トーマス殿、バルベンよりお越し頂き有り難く思う。ドラクロアダンジョンは新発見のダンジョンだ。これから発展していく上で、バルベンでサブマスターを務めたトーマス殿がいらして頂いたのは僥倖であった。

私にできる支援はしよう。」

「有り難き幸せ。

御高名な伯爵閣下にご支援頂ければ、ダンジョンの発展も間違いないでしょう。

私もウィリアム支部のギルドマスターとして全力を尽くします。」



「うむ。

さて、堅苦しい雰囲気も疲れたであろう。

楽にしてくれ。

トーマス殿とは良き関係を築いていきたいと考えているのでな。」

「有難うございます。

私も伯爵閣下と友好な関係を築いていきたいと考えております。

今後とも宜しくお願い致します。」


「ところで、1つだけ聞いておきたいことがあるのだがいいか?」

「なんなりとご質問ください。」


「トーマス殿はあのバルベンのサブマスターを務めていた方だ。それが何故、その地位を捨てて、ドラクロアダンジョンに来られたのか。疑問で仕方がないのだが?」

「いくつか理由はございます。が、最大の理由はウィリアム様の存在です。

あの方が全面的に関わるダンジョンです。数年後には、『見果てぬ塔』と比肩するダンジョンになると考えています。

その黎明期から深く関われる。その魅力の前では今のポストなど、どうでもいいと思えます。」


「なるほど。トーマス殿の中でウィリアムの評価が非常に高いことはわかった。

そうなった理由を教えてくれないか?」

「伯爵閣下がそのようなご質問をされるということは、ウィリアム様がその力を隠されているということでしょう。

それならば私から申し上げる訳には参りません。ご自身の目で確認してください。」


「ウィリアムか。どうやら私の想像を上回る傑物のようだな。フフフ、まだ10歳に満たない子どもだと思っていたが、認識を改めなければならないな。」

「数多くの冒険者や貴族、商人と会ってきましたが、ウィリアム様は別格だと思います。」


その後、トーマスはいくつかの会話をして退席した。



アデードを出発し、ウッドエッジを通過し、ウィリアムに到着。


トーマスは到着と同時に街の代表である、ミル=デリアンに挨拶に行った。


「はじめまして。新たにウィリアム支部のギルドマスターを務めることになりましたトーマスと申します。これから宜しくお願い致します。」

「ようこそ、お越しくださいました。

街の代表をしております、ミルオーレ=デリアンです。今後とも宜しくお願い致します。」


「早速ですが、冒険者ギルドの建設に向けて、場所の確保を進めていければと考えております。」

「そのことですが、ウィリアム様より、冒険者ギルド支部用の建物と職員用の住居をいくつか用意しております。

ご確認頂き、問題が無ければ、ご活用頂ければと考えております。」


「さすがウィリアム様ですね。未開地の開拓で、冒険者ギルドの支部を先回りして建設するなんて前代未聞だと思いますよ。」

「トーマス様はウィリアム様とお付き合いがあると伺っております。ウィリアム様が普通のことをされる訳が無いでしょ。」

「確かにね。ウィリアム様を信じてこちらに移って来て良かったですよ。」


「それでは、冒険者ギルド支部の候補地をご案内致します。」

「有難うございます。それと、ウィリアム様に『いつでもいいのでお会いしたい。』とお伝え頂けますか。」


「承知しました。今日の夜に会う予定ですので、お伝え致しますね。」

「宜しくお願い致します。」



翌日の夜、

「トーマスさん、ようこそ。」

「ウィリアム様、お久しぶりです。」

「前みたいに『ウィル』でいいですよ。」

「ではウィルさん、ギルドと住居を用意して頂いて有難うございます。」


「気に入ってもらえたなら良かった。

それにしても、トーマスさんが来てくれるとは思わなかったから、びっくりしたよ。」

「ハッハッハッ、いつもウィルさんには驚かされてばかりですからね。仕返しです。」


「でもいいんですか?モニカさんとか、職員までこんなに連れてきて。」

「問題はありませんよ。まぁ、バルベンの事務所は大変かもしれませんが、ドーガ商会に反抗的な職員ばかりなので、レオナルド達は喜んでいますよ。」

「なるほどね。バルベンの冒険者ギルドはレオナルドが後継者になったわけだ。」

「そういうことです。」



「さてと、そろそろウィルさんをお呼び立てした理由を話さないといけませんね。」

「そうそう、トーマスさんが、雑談するためだけに僕を呼ぶとは思えないからね。気になってたんだよ。」

「私は雑談のためだけに来て頂いてもいいんですけどね。

実はウィルさんたちの冒険者ランクがAになります。」


「えっ!なんで?」

「A ランクは実力、人間性に加えて、ギルドへの貢献度が基準になります。決定はギルドマスターの会議において行われます。

今回、バルベンのギルドマスター、バイゼルの推薦でウィルさんたちの昇格の審議が行われることになりました。

エール王国内最大の発言力を持つバルベンのギルドマスターの推薦ですので、落ちることはないでしょう。」

「でもなんで僕のことをバイゼルが推薦するの?」


「私、レオナルド、バイゼル。3人の思惑が一致したからです。」

「トーマスさんが僕を推薦してくれるのは、まだわかるけど、残りの2人は僕と関係が無いよ。」


「レオナルドには私が反対派を引き連れて街を出る条件の1つとして、ウィルさんの推薦を条件にしました。

喜んで推薦してくれましたよ。」

「サブマスター2人の推薦があり、貴族との関係を重んじるバイゼルがドラクロア伯爵の息子であるウィルさんの推薦を断る理由は無いですからね。」


「トーマスさんって、ホントたくましいよね。無理矢理貸しを作ろうとするんだもん。」

「商人気質なものでね。フフフ。」

「まぁ、貰える物は貰っとくけどね。」

「ウィルさんは気にせず、いつも通り過ごしてください。それだけで十分ですよ。

これから長いお付き合いになる予定ですので、宜しくお願い致します。」

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