幕間 ミレーヌの奮闘

今日の午前中は街の工房チームとの打ち合わせね。


街が発展するにつれて、ミレーヌはどんどん忙しくなっている。

ダンジョンの存在、街の存在が公表されたことで、街を訪れる冒険者や商人は徐々に増えてきている。

街のみんなは急激にスキルが上がり素晴らしい製品作りはできるようになったが、いかんせん商売の経験がほとんどない。あったとしても、村の小さな何でも屋ぐらい。


そこでミレーヌがウィリアム街の商売の窓口として中と外の調整をすることになったのだ。



「武器工房チームのみんな、製品を見せてね。」


「・・・こんなの外の冒険者や商人には売れないわよ!」

「そうか。やっぱりもっと努力して、もっと良い武器を作らないといけないな!」


「ちが~う!

逆よ、逆。性能が良すぎて売れないの。

こんなのが大量に出回ったら、市場は大混乱よ。

外に出す武器はミスリル禁止。

鉄の剣だって、異常な性能なんだからね。」

「そんなウィル様の作る剣に比べたらまだまだ全然ダメなのに。」


「ウィル様と比較しない!

あの方は常識の範囲の遥か彼方にいるの。

とりあえず、販売用の武器は鉄の武器だけね。」


「それじゃ、せっかく作った武器はどうするんだ?捨てるのか?」

「そんな勿体ないことしないわよ!

一部は取っておくし、残りはウィル様に渡すわ。詳細は不明だけど、ダンジョンの維持にいらない武器や防具がいるらしいの。」

「良かった。ウィル様の役に立つなら、なによりだ。」


「じゃあ、今回の武器は全部預かっていくからね。」

「よろしくお願いします。」



数日後、

再びミレーヌと武器工房チームの打ち合わせが実施された。

「みんなの作った製品を見せてね。」


「・・・これはなんなの!」

「ハッハッハッ、見たまんま包丁だぞ。知ってるだろ?」

「なんで!包丁がミスリル製なのよ!」

「そりゃ、ミレーヌちゃんがミスリルで武器を作るなって言うからよ。

坑夫たちがミスリル取ってくるし、武器に使えないとなると余るだろ。

だから日用品を作ることにしたんだ。」


「は~、なんなのよ。ミスリルの包丁って。こんなので野菜切ろうとしたら、まな板ごと真っ二つよ。」

「チッチッチッ、そんなこともあろうかと、じゃーん!ミスリルのまな板だ!どうだ!」


「ミスリルの価値ってなんだったんだろ。」

「ミスリルなら山ほどあるぞ?」

「普通わね。この街の外ではね。

ミスリルはすごい貴重品なの。

だから、滅多に純ミスリル製の武器は見かけないの。それが包丁に使われているなんてあり得ないことなの!」


「そうか~。じゃあミスリルの鍬とか、ミスリルの鉈、ミスリルのハサミとかはどうだ?」

「やめて~!ミスリルを無理矢理使わないで~!

多少なら武器も作っていいから、謎の農具とかやめてちょうだい。」

「仕方ねぇな~。せっかくだから包丁とまな板はムラーノにやるかな。」


「ウィル様の悪い影響が出てるわ。どんどん常識の枠の外に飛び立っていってしまう。」



今日は防具工房チームとの打ち合わせだ。

ちゃんとミスリルの防具は数量制限しているから、武器工房の時みたいなことにはならないはずよね。


「それじゃ、防具を見せてちょうだい。」


「・・・なんなの。

なんで『布の服』が『鉄の鎧』より防御力が高いのよ。」

「俺らが作った鉄の鎧なら、この布の服より防御力は高いぞ。」

「みんなが作った鉄の鎧は世間一般の鉄の鎧とは段違いに高性能なの。それは仕方ないと諦めてたけど、布の服で鉄の鎧を超えちゃダメよ。」

「仕方ないだろ。丁寧に仕上げたらそうなったんだ。職人として手抜きはできんぞ。」


「うっ、正論。

でも街の外に出す製品は制限させてもらうわよ。街の中で売るのはいいけどね。」

「しかし、街の外の冒険者は大変だな。そんなできの悪い装備に命を預けるなんて。」

「みんな、その装備で戦えるモンスターのエリアにしか挑まないから大丈夫なの。

その分、レベルの割に弱いモンスターしか倒せないんだけどね。」


「装備が悪いから弱いモンスターしか倒せない。弱いモンスターしか倒せないからレベルが上がらない。レベルが低いから余計に弱いモンスターしか倒せない。そんな感じになってるのか。」

「そうね。ウィル様はそんな世の中を嘆いているけど、中途半端に物を流すと混乱するから、状況が整うまでは制限することにしてるの。」

「ウィル様のご判断に従うさ。俺たちがまともな防具を作れるようになったのは、すべてウィル様のおかげだからな。」



は~、ウィル様の影響が出てるわ~。

街にいる職人が全員世界トップクラスとかやめて欲しいわ。

何作らせても常識破壊の製品が出来上がってしまう。

何を街の外に出すか頭が痛いわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る