幕間 アルガスが行く

ウィルが帰ってきたらしい。

家を出て、だいたい1年ぐらいか。

それで戻って来るとは、とんだ根性無しだな。

負け犬の顔を見に行くか。



「ウィル、元気そうで何よりだ。」

「アルガス兄さん、お久しぶりです。」

「もう家に戻って来るのか?」

「もう少し冒険者を続けるつもりです。」

「なら今日はなんのために戻って来たんだ?」

「父上に報告したいことがございまして。」


「ウィル、待たせたな。」

ウィルと話をしていると、父上がいらっしゃった。

「父上、お時間を頂き有難うございます。」

「うむ。早速だが、用件を聞かせてもらおう。」

「ダンジョンを未開地の森の中にて発見致しました。現在、ダンジョンを中心とした開拓村の建設とダンジョンまでの道の整備を進めております。発見の報告より先に開発を進めたこと、誠に申し訳ございません。」


「ほう、なるほどな。

開拓村の建設は誰にでも認めているし、事後報告も認めている。気にすることはない。

それよりも、ダンジョンを発見したのか。素晴らしいぞ。」

「有難うございます。」

「どの程度のダンジョンだ?」

「はい、冒険者に確認させたところ、『見果てぬ塔』に比肩するドロップアイテムだと申しておりました。」

「なに!『見果てぬ塔』に比肩するだと!

我が領内にそのようなダンジョンがあれば、大きな資産となるぞ。

よし、アルガスよ、部下数人を連れてダンジョン内を確認して参れ!」

「はっ。」

「バルデス、アルガスと共に行き、開拓村の状況を確認してきてくれ。」

「承りました。」

「久しぶりにソニアに会えるのだ。少しぐらいゆっくりしてきてもかまわんぞ。」

「お心遣い感謝致します。」



くそ。くそ。くそ。

あのウィルがダンジョン発見だと!

しかも『見果てぬ塔』と変わらないぐらいの優良ダンジョンだと!

それが本当なら大手柄じゃないか!

あの落ちこぼれが俺以上の手柄を上げるなんて許されることじゃないぞ!


いや、待てよ。

ウィルにそんなことができるはずがない。

どうせ、ちょっとした洞穴をダンジョンと勘違いしているとか、そんなことだろう。

せいぜい、弱小ダンジョンを誇大報告しているとか、その程度のことだろう。

かわいいじゃないか、偉そうに家を出たのに、何一つ上手くいかず、嘘をついて手柄を作ろうとするなんて。クククッ。


よし、俺が嘘を暴いてやろう。

ウィルが父上に落胆される姿を想像するだけで笑えてくる。

俺も信じているフリをして、嘘を暴いて嘆いてやろう。クククッ。



「これより、ウィルの発見したダンジョンに向かう。ここアデードから、辺境の街『ウッドエッジ』まで行き、そこから未開地を抜けていく。いいな。」

「「「「はっ」」」」

部下4名とバルデスを引き連れて出発する。全員騎乗なので、数日で到着できるだろう。

ウィルの嘘を暴くのが今から楽しみだ。


辺境の街ウッドエッジの街に着くと、1人の冒険者風の男が待っていた。

「ウィリアム様の使いで参りました、ディーンと申します。アルガス様でしょうか。」

「そうだ。」

「長旅ご苦労様です。宿を取ってありますので、今日はそちらでお休みください。

お一方だけ、私と一緒に来て頂けませんか?ダンジョンに続く道をご説明致します。」

「わかった。トマソン、お前が聞いておけ。」

「わかりました。」


街一番の宿を取っているとは、ウィルも成長したじゃないか。

それともゴマすりのつもりか。

ウィルに嘘をばらさないでくれと、泣いて懇願されるのも悪くないな。クククッ。



「アルガス様、こちらです。」

トマソンの案内で道まで来た。きれいな一本道だな。これなら道に迷う心配はないな。


特に問題も無く馬を走らせ続け、一泊してようやく村が見えてきた。

俺たちが近づくと、ぞろぞろと数人が出て来た。

「アルガス様、ようこそお出でくださいました。私、ウィリアム様より街の開発を任されております、ミルオーレ=デリアンと申します。」

俺と同い年ぐらいの女が挨拶をしてきた。

この雰囲気は貴族か。

ウィルのヤツ、開拓村の建設に他の貴族の手を借りているのか。それは大問題だぞ。

バルデスは貴族の事情に詳しいからな、後で確認しておこう。


「出迎えご苦労。俺たちが使う宿とダンジョンの場所を案内してもらおうか。」

「ご案内致します。まだこれからの開拓村ですので、宿を含め至らない点は多々あるかと思います。何卒ご理解のほど、宜しくお願い致します。」

「大丈夫だ。未開地の中で贅沢な接待など期待せんさ。」



宿はまあまあだな。

問題はダンジョンだ。

俺たちはバルデスと別れてダンジョンに向かう。案内は先日会ったディーンという冒険者風の男だ。

ダンジョンに入るとすぐに転移陣があった。


「こちらの転移陣を利用します。

転移した先にはレベル10相当のモンスターが出るのでご注意ください。」

「ほう、いきなりレベル10相当か。だが俺たちはドラクロア伯爵家の騎士だ。その程度は問題無いさ。」

「もちろん、そうでございましょう。

このダンジョンは転移陣で飛ぶ度にモンスターのレベルがだいたい5上がります。転移陣を利用される際はご注意ください。」

「わかった。」


まずいぞ!

領内にある唯一のダンジョン、カロンゾダンジョンはレベル10程度。確実に越えてしまうじゃないか。


転移陣を使うと、広い部屋に出た。

部屋からは沢山の通路が出ている。

その1つにだけ看板が建てられている。

「このダンジョンは同じ作りの階層が続いています。1つの通路はモンスターと出会わずに次の階層に転移できます。それ以外の通路の先には大きな部屋があり、大量のモンスターが出てきます。」

「わかった。まずは一戦してみるか。」


通路を抜けると大きな広間に出た。

広間にはわらわらとモンスターが大量にいる。

種類は雑多でドロップアイテムの種類も多いことだろう。


レベル10のモンスターは余裕であった。

俺の敵じゃないな。


翌日、俺たちはレベル15のモンスターを倒した。俺としては続いてレベル20のモンスターに挑みたかったが、怖じ気付いた部下たちが反対してきた。

ふん、軟弱なヤツらめ。

これでは父上へ俺の強さが伝えられないではないか。


さすがに嘘の報告は出来ない。

それならばウィルのダンジョンのインパクトを超える、俺の強さをアピールしないといけないのに!


結局、バルデスの言葉に従って一度、アデードに戻り父上に報告することになった。

くそ、俺のアピールにならないじゃないか!

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