孤児院

こんにちは。モンド院長いるかな?」

「こんにちは、ウィル様。奥にいらっしゃると思いますよ。」

「ありがとう、ミリア。」


ミリアはいつ会っても忙しそうだね。

教会の治療院と孤児院のかけ持ちは大変だと思う。モンド院長が心配するのもわかるよ。



「モンドさん、今時間あるかな?」

「ウィルか、片付けるから、ちょっと待っててくれ。」


「わざわざお前から声をかけてくるとは珍しいな。どうしたんだ?」

「前にミリアのことで僕に相談してただろ。」

「じゃあ、ミリアを貰ってくれるのか?」

「いや、僕なりの結論を考えたんだ。

モンドみたいに力業でミリアを引き抜くような作戦はしないよ。」

「じゃあ聞かせてくれるか、ウィルの考えを。」


「ミリアだけを貰うわけじゃなくて、孤児院ごと貰おうと思ってるんだ。」

「何を言っているんだ?」

「今、新しく村を作っていてね。そこに孤児院ごと移してしまおうと考えているんだ。かなり食糧事情の良い村だから、食うに困ることはないと思う。

仕事もポーターより断然安全な仕事を用意しているから、ポーターも辞められるよ。」


「なんかぶっ飛び過ぎてて、現実感が無いんだが、お前が言うからには本当なんだよな。」

「もちろん。」

「お前のことだから抜かりは無いとは思うが、何点か確認させてもらいたい。いいか?」

「なんでもどうぞ。」


「お前の村の場所はどこだ?

ここには長旅に耐えられない小さな子どももいるんだ。」

「場所はドラクロア伯爵領の未開地の奥になる。かなり遠いね。ただ転移魔法を使うから、一瞬で移動は終わるよ。」


「転移魔法か。存在は有名だが、実際に使えるヤツに会ったことは今までねえな。

だが、確かに転移魔法なら問題は無いな。

次に移動先で用意している仕事ってのはなんだ?」

「実際に見てもらった方が早いんだけど、簡単に言うと、虫の世話だよ。

毛糸モスって名前の蛾だね。サナギになる時に吐く糸が高級繊維になるんだ。

虫の餌になる葉っぱを集めたり、サナギを回収したりとかだね。

虫と餌用の林を孤児院の所有物にするから、ちゃんと世話をすれば安定収入が手に入るよ。」


「俺は商売のことはわからんが、虫の世話なら子どもに任せられるだろう。

わかった、お前に任せるよ。

ただバルベンでは今後も孤児は出てくる。俺たちが全員居なくなれば行く場所が失くなるだろう。俺だけは残るわ。」

「その必要はないよ。

ちゃんとモンドたちがいなくなった後のことも考えてあるから。

情報屋のランドって人に協力をお願いして、孤児を見つけたら、一時的に保護してもらうことになってるんだ。ランドに子どもの世話は無理だから、ランドは見つけて連れて来るだけ、世話は小遣い稼ぎのおばさん達にお願いする予定だよ。数日程度なら子どもの面倒を見てくれるみたいだよ。

そして、ランドの連絡を受けて、迎えに来るって感じだね。」


「お前の計画はぶっ飛んでるのか、しっかりしてるのか、訳がわからんな。とりあえず、準備はすぐに終わるから明日には移動できると思うぞ。」

「了解。それとさ、今日、この後、ミリアを少し借りてもいいかな。」

「好きにしてくれ。」

「ありがとう。じゃあ、また明日ね。」



「もう院長との話は終られましたか。」

「ああ、後でモンド院長から話があると思うよ。

それと少しだけ付き合ってもらっていいかな。院長には許可を貰ってるんだけど?」

「夕方までの時間なら大丈夫ですよ。」

「じゃあ、ついて来て。」


ミリアに『帰らずの回廊』で伝説職へのレベルアップをしてもらいました。

完全なえこひいきだよ。

職業は伝説職『聖女』。

回復系の中でもトップクラスの優良職。

教会に知られたら、すぐにスカウトされるだろうね。


ミリアを孤児院に連れ帰って、聖女になったことをモンド院長に告げたら、どこか遠くを見つめたまま、なかなか戻ってこなかったね。



翌日、

「ウィル様、全員集まっております。」

「そうか。ありがとう。

荷物はどんな感じ?」

「おっしゃっていた通り、とりあえず3ヵ所にまとめています。」

「よし。じゃあ先に人の移動を済ませようかな。その後、荷物も持っていくね。」


ダンジョン街の一角、

大きな建物が2つ、広場、林がセットになっている。そのすべてが孤児院のスペースだ。

毛糸モスを飼うための建物が1つ、孤児院として使う建物が1つ、子どもたちが遊ぶための広場に、虫の餌になる葉っぱを集めるための林。

この林には子どもが喜びそうな果実ができる木も少し混ぜときました。


「こんな孤児院、聞いたこともねえ。。。」

「とても広くてきれいです。ウィル様、本当にありがとうございます!」

ミリアが喜んでくれて、僕も嬉しいよ。

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