エリック兄さん

家を出て、約半年が過ぎた。

ダンジョンポイントはかなり貯まった。

実はラッキーなことがあった。

このダンジョンはポイントの加算条件が厳しい。なにせ基本はパーティーの全滅だからね。普通の冒険者は全滅するような無謀な挑戦はしないよ。

でも武器や防具を放置するだけで簡単にポイントが貯まっていくし、その変換効率が良いんだ。


ダンジョンの階層は限界まで増やした。

たった30階までだった。

『帰らずの回廊』が50階、『見果てぬ塔』が100階、かなり少ないね。

でも階層を30階まで増やした段階で、ボスモンスターが出現できるようになった。

キルアやレザードを見習って、最終階の1つ手前、29階に設置しました。


もちろん倒したよ。

始原花リーゼカイセル

植物タイプのモンスターだね。女性的なフォルムの巨大な花を中心にした巨大モンスターでした。

邪龍ガルガイア、獣王キルベルモス、とセットで毎日討伐するようにしている。


今日の夕食時にカシム、ソニアにダンジョンのことを報告する予定にしています。

そろそろ準備が整ってきたからね。

そんなことを考えながら夕食を食べていると、


「ウィル、久しぶりだね。」

「「「エリック兄さん(様)」」」

まさかのエリック兄さんの登場に3人の声がハモった。

「どうしてバルベンの街に?」

「父上と一緒に戦場に出てきたんだけど、帰りに多少寄り道すればバルベンに寄れそうだったからね。ウィルの様子を見るために寄ったんだよ。」

「よろしいのですか?行軍の最中に抜け出して?」


「ハッハッハッ、勝手に抜けたりしないよ。父上の命令で、こっちの領主に書類を届けに来たのさ。

まぁ、本来なら私が動く必要の無い仕事だけど、家を出て半年経ったウィルの様子が気になって仕方ないんだろうね。」


どうやら父上が、エリック兄さんが僕に会えるように無理矢理仕事を作って行かせたみたいだね。


「戦いはどうだったのですか?」

「父上が参加されたんだ。結果は言うまでもないだろう。

私も一緒に食事をさせてもらってもいいかな?」

ニッコリと笑うエリック兄さん。

「申し訳ございません。気が利かず。」

ソニアが恐縮している。


「私が突然押し掛けたんだ。気にしなくていいさ。

それよりも、ウィルが元気そうで何よりだ。カシムも以前より腕を上げたんじゃないか?雰囲気が変わったぞ。」

「毎日ダンジョンだからね。相当経験は積んだよ。」

カシムが笑顔で答えている。

イケメン同士の会話は絵になるね。


「ソニアも大変だろう。男2人の世話をするのは。ウィルが元気そうにできているのはソニアのおかげだよ。」

「もったいないお言葉です。私がウィル様のお世話になっているぐらいです。」


「ウィルは良い仲間に恵まれたな。」

「はい。カシムとソニアを貸してくださった父上の慧眼に感謝しております。」


その後もエリック兄さんを交えて楽しく話をしたよ。

「エリック兄さんはいつまでバルベンの街にいられるの?」

「明日の昼には出発するよ。

本当ならゆっくりウィルの生活を見させてもらいたいところだけど、忙しくてね。」

「何かトラブルがあったの?」

「さっき私が戦ってきたという話をしただろう。」

僕は軽く頷く、

「戦いには勝ったが我々が到着する前に、ドルマ帝国の威力偵察部隊がいくつかの農村を焼き払っていったんだ。

そのために住む場所も仕事も失った民がかなり出たんだ。その民達が行き場を失っていてね。このままだと、このバルベンに大量になだれ込んでくる。その対応に苦慮しているところだよ。」

「それは一大事ですね。大丈夫ですか?」


「なんとかするさ。当面の食糧さえ確保して、後は未開地の開拓に回せば、1年後には自給自足に近い生活ができるだろう。」

こういった民を見捨てないあたり、ドラクロア家は優しいと思う。


その夜、僕とソニアは先に部屋に帰り、エリック兄さんとカシムは夜遅くまで話込んでいたみたいだ。


翌日、兄さんは朝から忙しく動き回っているみたい。捕まえるのは難しそうだったので、手紙とムラーノに作ってもらったお弁当をソニアに託した。

僕は午後から、ダンジョンの有効活用に向けて動き出した。

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