シスター

ある日、

今日は昼から孤児院で子どもたちと遊んでいる。

僕も子どもなんだけどね。


孤児院では、

10歳になって『就職』したら、孤児院を出て行く。

8歳9歳の子どもはポーターをして、少しでもお金を稼ごうと働いている。

6歳7歳の子どもは院で下の子どもの世話を手伝っている。

みんな頑張っているね。


ある日、ダンジョンの出口で怪我をしているのに冒険者に見捨てられ、倒れていたポーターの子どもを僕が治療して、孤児院まで連れていってあげたのがきっかけだった。

それ以来、たまに顔を出して小さな子どもと遊んだり、寄付をしたりしている。



「ウィル様、今日もありがとうございます。」

そう言って、声をかけてきたのがシスターのミリア。

今年、回復職の『シスター』に、この孤児院で育った女の子だ。

教会の治療院で仕事をしながら、孤児院の仕事も手伝っている。

『シスター』なら教会で働けるし、もっと豊かな生活ができるはずなのに、孤児院を出ずにお手伝いをしているんだ。

ホント、聖女みたいな女の子だよ。

まだ10歳だけど、美少女でスタイルも良いから、将来が楽しみな女の子だ。


言っとくけど、僕が孤児院に遊びに来るのはミリアが目的じゃないからね!


「毎日モンスターと戦い続けるのも味気無いからね。たまにの気分転換だよ。」

「モンド院長が後で来て欲しいっておっしゃってたんだけど、時間は大丈夫?」

「いいよ。顔を出しとくよ。」


子どもたちと一通り遊んで、孤児院の奥にある院長室にやってきた。

院長のモンドさんは元々冒険者だったんだけど、仲間が亡くなった時に、その子どもたちを預かったのがスタートで、どんどん規模が大きくなり、今では孤児院の院長になっちゃった人だ。

いかつい見た目で、どう見ても孤児院の院長って感じじゃない。裏社会のドンって方がしっくりくるね。


「モンドさん、来たよ。」

「人の顔見てニヤついて、どうせろくでもないことを考えてたんだろ。」

「鋭いね。」

「否定しろよ。まったく。

それよりも今日も寄付をくれたらしいな。

ありがとよ。

お前が来てくれるようになって、ガキどもにまともなメシを食わせられるようになった。」


「別にいいよ。

おっさんの感謝の言葉は求めて無いから。

可愛い女の子や子どもの笑顔が見たいだけだから。」

「どういう教育を受けりゃ、お前みたいな性格になるんだか。」

「自分で言うのもなんだけど、しっかりとした教育を受けてるよ。」


「だろうな。立ち振舞いでわかるさ。

さてと、育ちが良くて、稼ぎの良い、優秀な冒険者のウィルに提案があるんだが。」

「何かな?」

「ミリアをもらってやってくれないか。

あの娘は自分の幸せを捨てて、孤児院に人生を捧げようとしている。

だが、それは駄目だ。

俺は、ミリアに自分の人生を十分楽しんで欲しいんだ。他人の世話なんざ、人生を一通り楽しんでからでいいだろ。

お前もそう思うだろ。」


「その感じだと、モンドはミリアを説得できなかったんだろ。」

「その通りだ。頑なに断られたよ。

だから、孤児院の運営資金と引き換えにウィルにミリアを売ったことにすればいい。

律儀な性格だからな、俺がもうお金を受け取ったと言えば、拒否はせんだろう。」


「本当にいいのか?モンドにはなんのメリットも無いぞ。」

「はん!損得勘定で動くヤツは孤児院の院長なんてしねぇよ。」

「状況はわかったよ。少し待ってくれないか。こちらにも色々準備があるんでね。」

「そりゃそうだな。

慌てないから、準備ができたら言ってくれ。」

「わかったよ。」


ミリアの幸せか~。

確かにミリアは孤児院で子どもの世話をする人生を選びそうだね。

色々な経験をさせてあげたいモンドの気持ちもわかるけど、強引に孤児院から引き離したら、心に大きな陰を落としそうだな。

『自分だけ幸せなんてダメ』みたいなこと考えそうだし。


時間は十分あるから、解決策を考えないとね。

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