料理人
ランクアップも終えたし、バルベンでの生活も落ち着いてきたかな。
カシムとソニアはダンジョン攻略を再開。
僕はトーマスへのお礼か40階前後のドロップアイテムを大量にギルドに販売してあげた。
夜にわざわざトーマスが訪ねて来て、お礼を言ってきたね。律儀な人だよ。
レザードの特製キメラとの戦闘も一段落したし、少し暇になってきた。
前から計画していた生きたダンジョン探しを本格化しようと思う。
探し方は簡単。ダンジョンを見つけて、最深部まで行く。もし生きたダンジョンなら、そこにダンジョンコアがあるらしい。
昔からあって、成長していないダンジョンは死んでいる可能性が高いから、行くだけ無駄らしい。
毎日午後は王国中を飛び回って探す予定にしている。
ある日、よく行く定食屋さんでランチを食べたら、むちゃくちゃ美味しかった。
「うまい!どうしたの?いつもと全然違うじゃん!」
「やっぱり美味しいよね。料理修行の旅をしている料理人がね、たまたまウチに立ち寄って、働かせてくれって言うもんだから、料理を作ってもらったら、びっくりするぐらい美味しかったのよ!
だから次の旅に出るまでウチで働いてもらうことにしたの。
今だけだから、また食べに来てね。」
女将さんもテンションが上がってるね。
多めにチップを渡して、
「後でその料理人に会えないかな?」
「昼時が終われば、少しぐらいなら平気だよ。」
「じゃあ後でまた顔を出すよ。」
しばらくしてから行くと、店を閉めて、片付けをしていた。
「女将さん、今なら大丈夫かな?」
「ちょっと待ってな。ムラーノ!」
「呼びましたか?」
30過ぎぐらいの短髪、色黒のがっちり体型の男が奥から出てきた。
「呼んだよ。こっちのお客さんがあまりに美味しいからって、あんたに会いにわざわざ来てくれたんだよ。
今なら少しぐらいいいだろ?」
「ええ、夜の仕込みを始めるまでなら大丈夫ですよ。」
「初めまして、料理修行の旅をしているムラーノです。」
「とても美味しかったよ。ご馳走さま。
僕は冒険者のウィルだ。
ムラーノは王国中を旅して回ってるの?」
「国内の主要都市は回ったと思うよ。」
「今後の目標とかあるの?」
「まだまだ自分の料理に満足していません。腕を磨くのと、できれば国外にも行って未知の食材や調理法に出会いたいね。
そして、料理人人生の中で究極の一皿を作りたいんだ。」
「その夢をサポートしてあげるから、ムラーノの料理を僕がいつでも食べられるようにしてよ。」
「お気持ちは嬉しいですが、私は旅をするので、いつでもというのは難しいですよ。」
僕はBランクの冒険者カードを見せる。
「えっ!Bランク!」
「そう。冗談じゃないってわかったかな。
今から僕の秘密を見せるね。それを内緒にしてくれるかい?ムラーノさんにとってもメリットがある話だから。」
「なにを、」
話の途中のムラーノさんに触れると一緒にメリッカに転移した。
「なんだ? ここはどこだ???」
「ここはメリッカ。僕は一度行ったことのある場所なら転移できる。料理修行で各地を回りたいムラーノさんにはすごいメリットじゃない?」
周辺を見回したりしながら、ここがメリッカであることを確認するムラーノ。
しばらくして、
「本当にメリッカだ。
ごめん、疑ってた訳じゃ無いんだけど、転移魔法なんて初めて見たから。」
「気にしなくていいよ。
だいたい、みんな同じ反応だから。
これで料理修行の問題はクリアできたよね。
次は究極の一皿作りだけど、ムラーノさんには決定的に足りて無い物がある。」
「決定的に足りない物?」
「そう。ムラーノさんは標準職だよね。」
「そうさ。確かに標準職の『料理人』だよ。でも、たとえ標準職でも上級職に負けない料理は作れると信じてるよ。」
「それは事実だよ。スキルを磨けば同じレベルの上級職に勝つこともできる。
でもね、スキルを磨いて、職業も転職すれば、更に良くなるんじゃない。」
「なるほど、話が見えてきたよ。
確かにB ランク冒険者にサポートしてもらえれば中級職への転職は目指せるかもしれない。私にとっては願ってもない話だけど、ウィル君はいいのかい?」
「じゃあ、決まりだね。チャチャッとやっちゃおう♪」
30分後、バルベンの食堂に戻って、
「なぜ私は伝説職になっているんだろう?
これは夢なのか???」
レベル上限まで上げなければ、『帰らずの回廊 42階』の瞬間レベルアップですぐに転職できるからね。
料理人→料理長→炎の料理人→伝説のアイアンシェフ
あっという間に伝説職のレベル70超え。
なんか混乱してるから、少しそっとしておこう。
あの状態で夜の営業大丈夫かな?
翌日、ランチを食べに行くと、
うん、昨日より、更に美味しくなってたね。
僕が食べていると、僕を見つけたムラーノが駆け寄ってきた。
いきなり僕の前で膝をつき、
「ウィル様、あなたに一生の忠誠を誓います。いつの日にか、私が作り上げた究極の一皿はあなたに捧げます。」
回りのお客さんは置いてきぼりだね。
いきなり店の中で、コックが客に忠誠を誓い出す光景なんて想像できないでしょ。
ランチタイムが終わって、落ち着いてからムラーノとは話をしたよ。
とりあえず、僕の行動について来てくれることになった。時々修行の旅はするみたいだけどね。
頼もしい仲間が増えたよ。
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