幕間 ソニアの思い
カシム様がかなりスパルタだった。
ウィリアム様にレベル上げをして頂いたのは嬉しかった。
しかも上級職レベル70以上。
つまり、いつでも伝説職に転職できる状況になっている。
私みたいなメイドが、伝説職になるなんて、普通ならあり得ないことだよ。
でも、どれだけレベルが上がったと言っても、モンスターと戦うのは怖いし、抵抗がある。
本当はモンスターと戦うなんてやりたくなかったけど、了承してしまった。
理由はカシム様。
カシム様と1対1で1日中、ずっと一緒にいられる。さすがに毎日1人で宿屋のお手伝いにも飽きてきたし、カシム様と仲良くなるキッカケもなかった。
チャンスのはずだったのにな~。
カシム様がけっこう厳しいんだよね。
自分自身に対してはもっと厳しいから、文句も言い難いし。
私が想像してたみたいに、手取り足取り、優しく指導というのとは全然違う。
モンスター発見。
倒す。
ダメ出し。
それの無限サイクル。
イチャイチャする時間なんて全然無いんだよ。
さすがに疲れ果てて、一度カシム様に言ったこともあったんだよ。
「もう少しゆっくりできませんか?
もうヘトヘトです~。」
「気持ちはわかるけど、今はそんな余裕は無いんだよ。ウィリアム様が私達をすぐに伝説職に転職させなかった理由がわかるかい?」
「えっ?考えたこともなかったです。」
「おそらく、ウィリアム様が『見果てぬ塔』の攻略を終えたら、私達はレベル100ぐらいのモンスターに挑まされるんだよ。
さすがにアイテム1つで倒すことはできないはずだ。ウィリアム様のサポートはあるだろうが、相手はレベル100のモンスターだ。少しのミスで殺されるだろう。
そしてレベルが上限の90になれば、再び転職して伝説職になる。またアイテムで70過ぎまでレベルを上げて、レベル100のモンスターと対戦。
おそらく、そんなスケジュールになるはずだ。」
「レベル100のモンスターと戦うなんて無茶苦茶ですよ。」
「ウィリアム様は毎日、簡単に倒している。あの人は感覚が麻痺しているんだ。誰でも、ちょっと頑張れば、レベル100になれると思っているんだ。
なにせ、自分自身が毎日レベル1から100に上げ続けているからね。」
「そんな。。。」
「だからソニアも、大急ぎで戦える状態に仕上げないと、レベル100のモンスターに瞬殺されてしまうぞ。」
ウィリアム様の周辺では感覚が壊れている。
カシム様に聞いたけど、用意してくれた装備は国宝級の価値があるらしい。
私の銃は普通の冒険者が使っている剣を100本売っても買えないレベルらしい。
それにエール王国の騎士団団長ですら、おそらく上級職のレベル50過ぎ。
カシム様が見習い騎士なのに、王国最強を超えてしまっているらしい。
とにかく、ウィリアム様について行くには現実を受け入れて、ただがむしゃらに戦い続けるしかないらしい。
そんな日々を過ごす中で、カシム様との距離は縮まった。
ただイメージしていたラブラブな感じではなく、死線をともに潜り抜ける仲間になってきている。
なんか違う。。。
「安心して背中を預けられるようになってくれ!」
カシム様からの言葉だけど、プロポーズでもなんでも無いからね。
1ヶ月もすれば、私も慣れてきた。
2人でダンジョンに入るようになったから収入は大幅に増えた。
この魔石しかドロップしない不人気ダンジョンでは、一番の稼ぎ頭になっていた。
私が想定してた生活とは全然違うけど、お屋敷にいた頃よりも笑う機会は増えた気がする。
なんと言うか、毎日必死に全力で生きている気がする。
ウィリアム様がそろそろ『見果てぬ塔』の攻略が終わりそうだ、と言っていた。
カシム様の想定だと、私達の地獄のレベル上げが始まるらしい。
ヤケクソ気味だけど、なんでも来い!って気持ちになっている自分もいる。
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