バルベンの街

カシムたちと別れて、いつも通りレベル上げを終えて、キルアとのランチタイム。


「これから『見果てぬ塔』に行ってくるよ。」

「そうか。ウィルなら問題無いだろうが、気をつけてな。」

「油断大敵だね。今回は午後だけで攻略だから時間がかかると思うよ。」

「そうか。そもそも塔の方がここより階層が多いからね。十分楽しめると思うよ。」


「キルアは行ったことあるの?」

「昔ね。ダンジョンマスターのマハリクに宜しく言っといてよ。」

「わかった。でもゆっくり攻略するから、ダンジョンマスターに会えるのはかなり先になると思うよ。」

「フフフ、悠久の時を生きる私からすれば、一瞬の出来事だよ。」

「じゃあ、行ってくるよ。」

「気をつけてな。」


ダンジョンを出て、転移魔法を発動。

バルベンの街のすぐそばに転移した。

そこから歩いて街に入る。

大きいね。

僕の故郷、アデードよりも格段に大きいね。

国内でも有数の大都市だからね。


せっかくだから観光してみようかな。


商店が立ち並ぶ。

武器屋、防具屋、道具屋、酒場、飲食店、宿屋などなどから、夜のお店もたくさんあるみたい。子どもの僕には関係無いけどね。

スラム街、貧民街なんかもあった。

トラブルは嫌だから近付かなかったけどね。


街を見て、わかったことがある。

武器や防具がショボい。

消費アイテムも低級品しかない。

アデードやメリッカに比べれば品揃えは良いけど、性能はほとんど変わらない。

一部性能の高い装備もあったけど、それはダンジョンで手に入れたアイテムらしい。

つまり、作れるアイテムがイマイチなんだ。


例えば、鍛冶で武器を作る場合、

『鍛冶』スキルのレベルとステータスの『器用さ』が結果を左右する。

この世界では、鍛冶職人は生産職だから、武器作りはするけど、モンスターを倒してレベルを上げたりしない。

結果、日々の生産活動で『鍛冶』スキルのレベルは少し上がるけど、『器用さ』は低いまま。しかも扱う素材が加工難易度の低い鉄とかばかりだから、『鍛冶』レベルもたいして上がらない。


そして、装備が悪いから冒険者もレベルが上げにくい。

悪い循環だね。

生産職のレベルを上げるって発想は無いのかな。

良い装備があればレベル上げも捗る。

レベルの高い冒険者が多くいれば、良い素材も多く手に入る、すると良い装備が安く手に入るようになる。


僕のまわりだけでも生産職のレベルは上げたいね。



街を見て回ったらけっこう時間がかかったから、今日はダンジョンを攻略する時間は無さそうだね。

でもせっかくだから、『見果てぬ塔』にも足を伸ばした。


高いね~。

真下に来ると見上げても頂上が見えない。

でも不思議なことに、ある程度以上離れると急に見えなくなるんだよ。


もうすぐ夕方、でもまだ冒険を切り上げるには少し早い。

だから、ダンジョンの前は空いていた。

早めに切り上げてきたいくつかのパーティーがいる。


ん?

なんか子どもがいる。

でも服装は冒険者っぽくないね。

ただの貧乏な子どもって感じ。

貧民街の子どもが就職と同時に冒険者になることは珍しいことじゃないけど、それとも違う感じ。

なんだろ?


「ポーターが珍しいかい?」

細身の男が声をかけてきた。

見た目は30代ぐらいの人懐っこい笑顔の男だ。妙に不自然さを感じるね。


「ポーターってなんなの?」

「坊っちゃんは『見果てぬ塔』は初めてかい?」

「そうだよ。ってことはポーターって、ここじゃ有名なんだ。」

「ご名答。ここの名物だよ。

このダンジョンの転移陣については知ってるかい?」

「たしか、一度到達した階層には入口からすぐに転移できるってやつだよね。」

「そうそう、その通り。

重要なのは転移陣を利用する時、有料だってことと、一度到達しないと使えないってことだ。

ポーターは元締めがいて、孤児を使って稼いでいるのさ。

ポーターってのはまだ就職していない子どもを、一度ダンジョンの深くまで連れて行く。

そうすると、いつでも一緒に転移できる荷物持ちの完成さ。

しかも登録されているポーターは転移料金が格安なんだよ。

割安で使い勝手が良いから人気だよ。

ポーターをやってた子どもも就職したら、だいたい卒業していくな。」

「なるほどね。冒険者の街なら孤児も多いだろうしね。」

「そういうことだ。孤児が生活費を稼ぐ手段としては有効だからな。寄付だけでは孤児は養えない。実際、ポーターの報酬が孤児の生活を支えているのは間違いない。」


「ありがとう。良い勉強になったよ。」

「それは良かった。」

「で、僕にわざわざ声をかけた理由はなんだい?」


「鋭いね。

俺は情報屋をやっているランドだ。

君みたいな変わった存在とはお知り合いになりたくてね。」

「僕はそんなに変わってるかい?」

「そうだな。変わってるよ。

まだ10歳に満たない子どもがダンジョンにレベル上げに来ることは珍しいことではないが、護衛をつけずに1人で行動しているのは十分珍しいよ。」


「なるほどね。良い勉強になったよ。

これはお礼だよ。」

銀貨を指で弾いて渡した。


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