家族の愛
エリック兄さんは一番上の兄さんで、優しくて優秀でドラクロア伯爵家の跡取りとして申し分ない、と言われる優等生だ。しかも父上と同じ『将軍』になってから評価が更に上がっている。
僕も勉強から剣術まで色々教えてくれた。父上は忙しい人だから、ある意味父親代わりの存在だ。
「すまないな。急に押し掛けて。」
「全然問題無いよ。エリック兄さんはどうしたの?」
「ウィルが突然家を出るなんて言い出したから、真意を確認しに来たんだ。」
「僕は本気だよ。」
「家を出た後の計画はあるのか?」
「まずは冒険者になろうと思う。『フリーター』は毎日レベルアップを続ければ、沢山のスキルを手に入れられる可能性があるからね。」
「なるほどな。だがモンスターとの戦いはウィルが思っているほど易しくないぞ。」
「まずはダンジョン上層部で馴らすつもりだよ。」
「わかった。ちゃんと考えているんだな。その場の思いつきで無いとわかれば、それでいいんだ。
これを持って行け。」
「これは?」
「牙のお守りだよ。攻撃力を少しだけ上昇してくれるアクセサリーだ。冒険者をやるなら、少しは役に立つかな。」
「あ、ありがとう。。。」
涙が出て止まらないよ。
「グスッ、グスッ」
「そんな反応されると困るよ。
それほどの品じゃないからね。
俺もまだ見習いの身だから、すごい物は用意できなかったからね。」
「僕の事をちゃんと考えて、心配してくれてるのが嬉しいんだよ。」
「家族なら当たり前だろ。」
「そういう事をさらっと言えるのはエリック兄さんぐらいだよ。」
「そうか?」
「そうだよ。これは大切に使わせてもらうね。ありがとう。」
その後、他愛な雑談をした後、エリック兄さんは部屋を出て行った。
エリック兄さんが出て行ってすぐに、
コンコンコンコンコン
「ウィルお兄ちゃん!」
「アルマかい?」
アルマは妹だ。
男3人の後に産まれた女の子ということで、みんなが可愛がっている、ドラクロア家のアイドルだね。
年の近い僕のことも慕ってくれていて、いつも僕の後についてくるんだ。
「ウィルお兄ちゃん、行かないで~。
ウェェェェェ~ン。」
よしよし、
頭を撫でて、落ち着くのを待つ。
「僕は旅に出るけど、もう会えないってわけじゃないんだから。」
「でも、でも、、、当分会えなくなるんだよね?」
「当分会えないけど、アルマは僕の妹だよ。アルマが困った時には絶対駆けつけるから。」
「本当に来てくれる。」
「もちろん。僕がアルマに嘘をついたことある?」
首をふるふる振って、
「ない。」
「だろ。」
アルマが落ち着くまで、ぎゅーっと抱き締めた。
その後、しばらく話をしていたら、メイドさんがアルマを呼びに来た。
みんな優しくね。
僕のことを心配してくれてるのが、凄く伝わってくる。
コンコン
「ウィリアム様、カリーナです。
今、宜しいでしょうか?」
「どうぞ。」
カリーナさんは母上専属のメイドさんだ。
何の用だろう?
「お忙しいとこら申し訳ございません。
マリアンヌ様よりこちらをお渡しするようにと。」
母上の名前はマリアンヌ。
中級職『ハイヒーラー』。
中級職だけど、回復職は人気が高く、半ランク上ぐらいの価値があると言われている。
家にいつでも怪我を回復してくれる人がいる安心感は大きいよね。
カリーナさんが出したのは1本の杖だった。
「これは?」
「『火吹きの杖』というマジックアイテムです。道具として使用すると火の玉が飛び出します。何度も使えるのが特徴です。」
うわ~、これ絶対貴重品だ。
「本当にいいんですか?こんな貴重な品。」
「マリアンヌ様より伝言をお預かりしています。宜しいでしょうか。」
僕はコクリと頷く。
「何も心配せず、自分を守るために使いなさい。子供は親の厚意をただ受け取りなさい。
とのことです。」
火の玉が何度も出せるマジックアイテム。
毎日レベル1になる『フリーター』にとって、物凄く役立つアイテムだね。
「カリーナさん、母上に伝言をお願いしてもいいかな。」
「もちろんです。承ります。」
「では母上に、
有難うございます。僕は絶対に死にません。生活が安定したら必ずお礼をします。
そう、お伝え頂けますか。」
「承りました。ウィリアム様、ご立派になられましたね。」
カリーナさんは挨拶をして出て行った。
今日は家族の優しさに包まれた1日だった。
こんな優しい人たちに囲まれているのに自殺なんてしたら駄目だよね。
まあ恵まれている人は自分が恵まれていることに気付かないもんなんだろうね。
まぁ、次男のアルガス兄さんからは何もなかったけどね。
アルガス兄さんは長男のエリック兄さんと常に比較され、劣等感の塊みたいに育った人。
そんな人が上級職『パラディン』になっちゃったから余計に歪んでしまっている。
僕が『フリーター』と言われた時に唯一、ニヤリと笑っていたのを覚えているよ。
そんな人から心配してるなんて言われても気持ち悪いよね。来なくて良かったよ。
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