第3話

 ミーナのもとに、人気のゲーム機が届いた。父が初めて、有言実行したのである。

 アワーゼロが、お金になったのだ。圧倒的な強さを誇るソフトは、ネット上の対戦サイト「ピゴラピダ」でトップに躍進した。それは、画期的な出来事でもあった。ピゴラピダは元々ソフトの対戦用に作られたサイトだが、今では誰でも参加できる。つまり、人間も指しているのである。多くのプロが利用していると言われ、トップは常に「ソフトの名前ではない」アカウントだった。

 それがついに、ソフトの名前を冠したアカウントがトップを獲ったのである。「ソフトが人間を越えた」と関係者の間では騒然となった。

 しかしその直後、アワーゼロのアカウントは消えた。ミーナの父がお金を手に入れたのと、時を同じくして。

 ミーナは、詳しいことは聞かなかった。嬉しいふりをして、大声を出してゲームを遊んだ。父は、うつむく時間が増えた。

 「いいこと」ではなかったのだろうか。気になりはしたが、ミーナはゲームを続けた。

 機種は最新だったが、「旧作ダウンロードパック」というものが付いていた。レトロなゲームを幾つもダウンロードして遊べるのである。その中に「エクセレントショウギ」というものがあった。ミーナは将棋をしたことがない。チェスは少しだけ。

 ミーナはエクセレントショウギをダウンロードしてみた。将棋のおかげで買えたゲームだ。将棋のことを知っておくのもいいだろう、と思った。

 説明書はない。いつものように、ミーナはとにかく駒を動かしてみる。動かせない場所を指定すると「ブブー」という警告音に叱られる。とにかくいろいろ動かしてみて、ミーナは基本的な駒の動きを「見つけた」

 とにかく指し続ける。途中、相手の王将を「捕らえた」と思ったのにそこに駒を置けなかった。置きさえすれば勝てるのに! バグ?

 ミーナはプライドを捨てて、父の部屋へと走った。

「お父さん、歩が置けない!」

「はあ?」

「歩を置いたらもう逃げる場所がないのに、置こうとすると『ブブーッ』! エクセレントショウギはクソゲー?」

「あー、そういうことか。打ち歩詰だな」

「ウチフツメ?」

「最後に歩を打って詰ませたらいけないんだ」

「詰ませたら?」

「なんだ、『詰み』もわからないのに『打ち歩詰め』の局面まで行ったのか。さすがだなあ」

 父は頭をかきながら立ち上がった。

「教えてくれるの?」

「ああ。ミーナが将棋に興味を持つなんて、こんなに愉快なことはないから」

「やった」

 ミーナは実は、父から教わるのが好きなのである。ただ、仕事の邪魔をしないように「自分で覚える」癖がついていたのだ。

「将棋、楽しそうか?」

「わかんない。今のとこ楽勝そう」

「はは、昔のゲームだからな。アワーゼロは百倍強いぞ」

「ふーん。いつかそれにも勝ってみたい」

「ははは。ミーナならできるかもな」

 父親は完全なお世辞を言ったが、ミーナは額面通りに受け取っていた。

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