第8話 主婦マリヱは初めて馬に乗って戦姫とお話をする

イサヲが尼孫アマゾンのサラさんをお姫様抱っこしているっ!


「イサヲ様、わたくしめ如きが勿体のうございます。まず魔王母さまを先に、お母君様を次に、わたくしめは走って付いていきます」

「イサヲ君、サラちゃん、私は大丈夫よ。マリヱさんを乗せてあげて」

 ヰチヱ様すごい!

 裸馬の背にひらりと跳び乗りました。あの高さジャンプするなんて私じゃ無理よ。イサヲでも出来るのかしら?

 そういえば、なんか違和感あるなと思ってました。今気が付きました。ヰチヱ様の馬も、サラさんの馬も、鞍も鐙も付いてないのです。這いあがれないし、ちょっと怖くて乗れそうにありません。イサヲが手綱に握って私が後ろに乗る。それが望みですが、さすがにイサヲでも裸馬を御せるのかしら?


 結局「誰と誰がどの馬に乗るか?」と言う問題は鶴の一声で決まりました。ヰチヱ様のお言葉により、私はサラさんと同乗することになりました。下からイサヲに支えられ、上からヰチヱ様とサラさんに手伝われ、ようやく馬に乗ることが出来ました。馬に乗るのも初めてです。イサヲはヰチヱ様から馬の御し方を教わりながら同乗しています。

 足がふわふわして落ち着きません。しっかりと尼孫アマゾンの美少女の腰にしがみ付いています。女の子だけど、筋肉がしっかりついている。体育会系女子だわ。


「私、足手まといで御免なさい」

「とんでもございません。わたくしめ如き婢女に謝らないでくださいませ。勿体ない御言葉です」

「あなた凄いわね。女の子なのに、馬を乗りこなしたり、男の子と互角に戦ったり」

「いえ、女だから馬を乗りこなすのです。イサヲ様のように、女を凌ぐ男の方がいらっしゃるとは思いもよりませんでした」

「女だからって、どういうこと?」

「この世で初めて馬を乗りこなしたのは女です。オスはタマタマが邪魔だから、馬に乗ると痛くて我慢できません。だから女だけが馬に乗るのです」

「『さっき男風情が馬に乗るのは……』と言ってましたけど」

「私たちの凰丹国フェムドムでは、賢き君ヨシヲさまを除けば、女より偉い男の方などいないのです」

「女尊男卑なのね?」

「ジョソンダンピとは、どういう意味でしょう?」

「女の人が偉くて男の人が尻に敷かれてるってことよ」

「なるほど、その通りです。私たち尼孫アマゾンは、女たちが勇ましく、常に剣や槍、弓の技を鍛えて戦に備えています。男たちは善き夫、賢い父として家や国の為に尽くすのです。凰丹国フェムドムの民草たちは、女が妻として母として男たちや牛を働かせ、田畑を耕して富を蓄えるのです。その富を嬢凰じょうおうさまや尼孫アマゾンたちに貢ぐのです。それに替えて、尼孫アマゾンたちが民草を守るのです」

「『男たち』って……もしかして夫が何人もいるのかしら?」

「夫を二人三人持つのは当たり前です」

「もしかしてサラさんも夫が……」

「私には未だ夫がいません。もうイサヲ様の婢女です。夫を持つことは無く、ただイサヲ様の為に尽くすだけです」

「イサヲのことが好きなの?」

「婢女の分際で好きとは畏れ多いです。イサヲ様を心から敬い身を委ねるだけです。イサヲ様のモノなら謹んで口付けできます」

尼孫アマゾンの人は、人前であんなことするの?」

尼孫アマゾン凰丹国フェムドムの誇り高き戦姫です。男のモノなど陰でも表でも舐めません。でも、イサヲ様は尊き御方です。婢女として敬い従う証として跪いて口付けするつもりでした」


 この娘さん、ナニを仰ってるのかしら?

 イサヲのことが好きなのは判るけど、色呆けた厭らしさは全く感じません。臆面もなく堂々と語っています。習慣とか考え方が違うのよね。私、ヰチヱ様にも付いてけないけど、凰丹国フェムドムの人にも付いて行けるのかしら。女尊男卑の国では、私の考え方って婢女や女奴隷みたいなものよね。

 そういえば、シモンって過激なフェミニストっぽい発言してたわね。女尊男卑の習慣にノリノリなんじゃないかしら?

 ヨシヲさんを尻に敷いてるでしょうけど、さすがに虐げたりしてないわよね?


「ところで、シモンって、どうなのかしら?」

嬢凰じょうおうシモンさまは偉大な御方です。見た目は私より若いですが、とても眩い御方です。嬢凰じょうおうさまの御稜威の前では、わたくしめ如きでは目が眩み、冷や汗が流れそうです」

 私の頭の中に、偉そうにふんぞり返っている女子中学生の姿が目に浮かびました。私、娘の前で平伏してしまうかも。


「ヨシヲさんは、どうなのかしら?」

「賢き君ヨシヲさま、知恵深く、心の広い御方です。そう、ヰチヱさまのように偉ぶるところが全くありません。誰にでも優しい、善き夫、賢き父のお手本の様な御方です。賢き君ヨシヲさまが男たちに教えを施し、技を教え、凰丹国フェムドムをとても豊かにしています」

 ヨシヲさんは相変わらずね。こちらの世界でも好い先生なのね。こんなこと考えるのは図々しいですが、私のことを温かく赦してくれそうな気がします。


「シモンとヨシヲさんの間って、どうかしら?……例えば子供とか?」

「御子はおられません。賢き君ヨシヲさまは、嬢凰じょうおうさまの父君にして夫君にして御子さまと伺っております。ちょうど魔王母さまと犬魔王様のように」

「ヨシヲさんは、今おいくつかしら?」

「御年四五才と伺っておりますが、若くお見えです。三〇前くらいにしか見えません」


 確かヨシヲさんって、地味だけどイケメンで若く見られたわよね。それでも三〇前は、おだて過ぎじゃないかしら?


「ところでサラさん。私は何歳くらいに見えるかしら?」

「大変お若く見えます。二五歳くらいでしょうか?」


 きゃー嬉しい!

 嬉しすぎて馬から落ちそう!

 三五才で桃源郷に来て、一五年過ごしたから、もう五〇歳ね。でも見た目は三五才のまま。中身も成長してません。桃源郷の甘い甘い果物のおかげで、見た目年齢は五才若返っています。更年期を経たという自覚が有りません。永遠の三〇才でも十分嬉しい。それが二五歳ですって?

 お世辞でも嬉しいわ。この娘は本当に好い娘ね。イサヲの嫁にしても好いかな。と、思わないでも有りません。

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