第4話 主婦マリヱは異世界召喚された遠因を知る
ヰチヱ様って凄い!
身重なのに、するすると高い木に登って色々な果物を取って下さる。私は鈍臭くて全く登れません。登る勇気がありません。ヰチヱ様は、いつも私たちに快く果物を分けて下さる。ここでの食事は果物だけです。桃にスモモ、林檎、梨、蜜柑、バナナ、葡萄、アケビにイチジク、何でもかんでも採れます。むちゃくちゃね。でも、どれも甘くて美味しいです。
蜂の巣から蜜も分けて貰ったりします。私は怖くて近づけません。そもそも木に登れません。ヰチヱ様は蜂に刺されることも無く、蜂蜜を取ってきます。白魚の指にべっとりついた蜂蜜を丁寧に舐めとります。甘い服従心で満たされます。
私はヰチヱ様に依存しきっています。それでは申し訳ありません。自分に出来ることを探し、出来る限り御奉仕差し上げます。御髪を梳いたり、御体を揉んだり、洗って差し上げたり。あまりお役に立てなくて申し訳ありません。それでもお仕え出来ることで心が満たされます。居眠りしてる時、思わず唇を奪いたくなります。もう男無しでも生きていける気がしてきました。
桃源郷ヱデンの島は常夏と言うか常春の世界です。一糸まとわぬ丸裸でも、暑くも無く寒くも無くもありません。時を忘れている中に私のお腹も膨らんできました。
ここに来てから、別の意味でお腹に異変が起こりました。ヰチヱ様はウンチなんてする筈の無い美女です。私までウンチをしなくなりました。別に便秘で苦しいなんてことはありません。いつも腸の中は爽快で快調です。ある時、ヰチヱ様に尋ねてみました。
「ごめんなさい。勝手なことしちゃって」
「謝らないで下さいませ。恐れ入ります。……どういうことなのでしょう。私はナニをされても、お慕い申し上げます。ふと疑問に思っただけですので」
「あなたが初めて来たときにね。アナルワームの卵を植え付けちゃたの。あなた落ち込んでたわよね。気分を落ち着かせる効能も有るのよ。私もお腹の中に飼ってるし。美容にも健康にも好いのよ。善かれと思って勝手なことしちゃったわね」
「とんでもございません。お礼を言わせてください。御蔭で体も軽くて、肌もつやつやになりました。心遣い、有難うございます」
私は深々と頭を下げました。裸土下座で感謝を表しました。
そういえば、ヰチヱ様と初体験の時、座薬のようなものを入れられた気がするわ。気持ち好かったから、ナニも気にしてませんでした。それに知らない間に、あそこをツルツルにされ、腋毛も生えなくなりました。これもアナルワームの効能かしら?
やがてヰチヱ様は臨月を迎えました。その直前まで平気で木に登っていました。
「あっぁぁ~ん、もう立てない」
とっても甘い喘ぎ声が耳に響きました。ヰチヱ様はお腹おかかえて跪いています。これって陣痛よね?
陣痛の時って傍目にはこう見えるのかしら?
そんなことはないわよね。
二度も出産経験あるけど、どうしたら好いかしら?
全部お医者さん任せだったから判らない。でも何かしなきゃ。
取り敢えず、私とヰチヱ様を介抱しました。
「ヰチヱ様、大丈夫ですか?}
「海で産むから、手伝ってね」
それにしてもヰチヱ様の御顔、陣痛にもがいてる様には見えません。まるで快楽に身もだえしてるみたい。とっても甘い匂いがします。そして特に苦しむことも無く男の子をお産みになりました。魔王ちゃまと言うから、どんな赤ちゃんかと思いましたが、ごく普通でした。角が生えてる訳じゃありません。しかし、声は上げましたが泣きませんでした。ヰチヱ様のお話によると、生まれた時点で生前の人格や記憶が丸写しなのです。体は赤ちゃんでも、心は大人なのだそうです。私がイサヲちゃんを産む時もそうなのかしら?
魔王ちゃまがお生まれ遊ばされてから、厭らしい視線を感じるようになりました。でもヰチヱ様に申し上げられません。私が我慢すればいいんだわ。その分、ヰチヱ様に慰めて貰おう。
ヰチヱ様が木登りされてらっしゃる間、私は魔王ちゃまのお守りをしました。意外と、おっぱいに興味ないみたい。未だ母乳は出ませんし。いちょまえにお尻が好物みたい。木登りするヰチヱ様の美尻を凝視なさっています。私の弛んだお尻も嫌いじゃないみたいです。考えようによっては、未だ私みたいなオバサンにも女の魅力が残ってるのよね。
やがて私も臨月を迎えました。やっぱ陣痛は痛いわよ。過去の出産に比べたら全然楽ですが。私も海で産みました。生まれた子供は男の子です。イサヲの生まれ変わりじゃなくて、イサヲ自身だそうです。ということは中身が大人なのよね?
ヰチヱ様の全裸姿は教育に悪いと思います。特に男の子には目の毒です。ヰチヱ様のことは大好きだけど、愛しいイサヲを奪われないか、気が気で成りません。
「あの~ヰチヱ様、恐れながら申し上げます……」
「服のことでしょ?」
「どうして、お分かりになられたのですか?」
「だって、シモンちゃんにも怒られちゃったもの」
「娘の無礼どうかご容赦を」
「ナニを水臭い。マリヱさんもシモンちゃんも、お友達以上の間柄よ。遠慮することは無いわ」
母娘揃って親子丼にされてたんだわ。思わず赤面してしまいました。でも、ヨシヲさんは娘とアレで親子丼よね。それに比べたら、どうということはないわよね。
ヰチヱ様は何処からともなく、服や帯、装飾品を出してくださりました。まるで国民的アニメ『ドザえもん』の異次元チャックみたい。この世界の衣装は男女ともにワンピースです。生地は麻か毛織物で、木綿や絹は有りませんでした。女性は脛丈、踝丈くらいの長めのワンピース、男性は膝丈くらいだそうです。腰に帯かベルトを締めるそうです。ズボンや下着は無く、男の人はミニスカ姿、女の人はノーパン、ノーブラとのことです。久々に全裸生活から解放されました。あのヰチヱ様はどんな御召し物をお召しになるのかしら?
ヰチヱ様は白いローブをお召しでした。あの光沢は絹よね。本当に女神さまみたい。魔王ちゃま厭らしい。ローブの中に入っていく。ちらりと見えました。ヰチヱ様の素肌が。ローブの下はすっぽんっぽん。全裸マント状態でした。それでも、全裸で歩き回られるよりは好いわね。
女二人だけど育児は意外と楽でした。赤ちゃんの頃からアナルワームを植えられていたのです。おかげでオムツの手間が省けました。赤ちゃんたちも、おしっこする時は声を上げます。ナニか言おうとしてますが、未だ喋れません。
偶に赤ちゃんを交換して乳を吸わせました。魔王ちゃまは私の乳、イサヲちゃんはヰチヱ様の乳を飲みました。これで魔王ちゃまとイサヲちゃんは乳兄弟の間柄になりました。ふとイサヲちゃんのことを考えました。この子は私の息子で孫なのよね。娘にとっては元兄で、今は弟であり、甥っ子ってことにもなるかしら?
やがて数年が過ぎました。イサヲちゃんって子供ながらイケメンね。運動神経が良くて木登りも出来ました。それに比べ魔王ちゃまってスケベで怠惰でした。綺麗なヰチヱ様に甘えっきりです。魔王ちゃまの御召し物はマントだけ。ちょうど裸の王様みたいです。子供のくせにオチンチンが大きい。明らかにヰチヱ様を求めています。ここだけの話、魔王ちゃまは変態変人です。でも一番妙なのは見た目です。あのお美しいお母様に全然似ていません。イケメンでも有りません。生まれるところ実際に見ましたし。ヰチヱ様の子供に間違いはないんですが……。昔のお下品ギャグマンガで有ったわよね。おまわりさんの格好したフルチン少年みたい。でも、あの顔どこかで見覚えがあるわ。ナニか考えてると、ナニも言わなくても、ヰチヱ様は察して下さいます。
「魔王ちゃま、もとい犬魔王サノバヰッチがナニモノか気になるんでしょ?」
「あ、はい少し」
「ノートルダムの大予言って知ってるわよね?」
「一九九九年七月に人類が滅びる予言ですよね」
「でも滅びなかったでしょ?」
「はい……もしかして魔王ちゃまが人類を滅ぼす大魔王だったのですか?」
「魔王ちゃまの前々世は未だ人間だったのよ。一九九九年七月の満月の宵、一人寂しく三〇歳の誕生日を迎えたの」
「『三〇歳まで童貞でいると魔法使いになれるかも?』って都市伝説ですか?」
「そうよ。彼が寂しさのあまり、人を妬み、世を憎み暴走しかけたの。それを私が蜜壺に封印したのよ」
「もしかすると、前々世の魔王様に私会ったことが有るかもしれないんです。どこかで見覚えが有るんです」
「ちょっと思い出してみる?」
私は白日夢に晒され、時を遡りました。今は花の女子高生、恋多き少女ね。イケメンと多く付き合ってきました。最近、非イケメンの男の子の良さも判って来ました。初心で内気な男の子に手ほどきするのも嫌いじゃないわ。ある時、目立たない男の子からコクられました。でも当時彼氏がいたのです。それで、やんわりと断りました。魔王ちゃまの前々世って、あの時の……。
「あぁ……私があの男の子の心を傷つけて魔王様にしてしまったんですか?」
「そうかもね。それで捻くれてしまったけど、あなたのことは嫌いになれなかったのね。それが、あなたとシモンちゃんが、ここに引き寄せられた理由の一つね」
「私、魔王ちゃまに申し訳ないことしたのね」
「そんなことないわよ。自分を責めないでね。理由はもう一つあるわ。あなたとシモンちゃんが近親相姦したことね」
「やはり自業自得なんですよね」
「近親相姦、特に母と息子、父と娘って、人の世では禁忌中の禁忌、鬼畜外道の所業と看做されるわよね」
「はい……ぐすん」
「禁忌中の禁忌、タブーって言うのはね、実は膨大な魔力を生み出す儀式だから忌み嫌われてるのよ。あなたたちは無意識に息子や父親を心筋梗塞で死なせて生贄にしてしまったの。それが魔王ちゃまの心のしこりと結合して召喚されたのよね。恐らく……」
「私だけなら兎も角、娘まで……?」
「それは、あなたの生き写しだからだと思うわ。魔王ちゃまの倒錯した性癖に巻き込まれたのね。魔王母として申し訳なく思うわ」
「ヰチヱ様、謝らないでください。私だって今の境遇を恨んでません。現世には無かった開放感を味わってます。今に比べたら、現世はどこか窮屈でした」
これが心からの正直な気持ちです。
後々の説明を聞いて少し解りました。私と娘は近親相姦と言う非人間的な禁忌を犯してしまった。そのせいで、もはや人間ではないそうです。もう人間止めてヰチヱ様に近い存在、つまり魔女の端くれになったのでした。
魔女だから魔法使えるのかしら?
いずれ使えるようになるかもしれないそうです。でも今は未だ使えません。時間は何時までもある。時は永遠なので急ぐ必要はないそうです。何故ならば、私は永遠の三十五才になったからです。でも娘は十五才ままですって!
なんかずるいな。娘が羨ましいです。私も、もう一回り若返りたかったです。こんなことボヤいたら罰が当たりますね。
しかし、この永遠の若さに何の代償も要らない訳が有りません。その秘術が近親相姦なのです。近親相姦は膨大な魔力を産む禁忌の魔法儀式だそうです。魔王ちゃまは、ヰチヱ様とイケないことして三回は生まれ変わっているそうです。私も同じことをすればいいのですが、躊躇います。娘のシモンは同じこと繰り返すつもりかしら?
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