第2話 主婦マリヱが新たな出逢いから、異世界に逝くまで
電話のベルが止みません。電話を取る気力も有りません。
ようやく気を取り直して電話に出ました。夫の職場と娘の学校からでした。二人とも、出勤、登校してませんでした。うつろな私は何と答えたのだろう。覚えていません。
こういう時は失踪届けよね?
警察署に行かなくちゃ。うつろなまま外に出ました。靴も履かずに夜空の下を彷徨いました。裸足って気持ち好いのね。
「お~い、マリエちゃん、おひさ~♪」
聞き覚えのある声、あのチャラヲだわ。私は答える気力も無い。
チャラ男が後ろから抱き着いてくる。私の胸を揉んでいる。でもナニも感じませんでした。
「マリエちゃんさ~、旦那と娘に逃げられたんだって?」
私はため息を吐くだけ。何も答えられませんでした。あの写真はチャラヲの仕業なのね。絶望に打ちひしがれてる私には、怒る気力も有りません。
そんな私にチャラヲは畳みかけます。
「俺たちさ~小遣い稼ぎになると思ったんだけど、鐚一文も稼げなかったんだよね。マリエちゃん、好い年してもソソル体してるよね。むちむち感が堪らないな。AVとか出てみない?」
この時の私は生きる屍でした。抵抗する気も、大声出す気力も有りませんでした。あのチャラ男の他に、数人の男に囲まれています。河原に連れ込まれたみたい。スカートの中に手が入って来る。私どうなるのかしら?
もう、どうでもいいわ。諦めて目を閉じました。その時、爽やかな旋風が吹き荒れました。
気が付くと、私はお姫様抱っこされています。
チャラヲは喉から頭から血を流して倒れてました。昔は嫌な奴じゃなかった。不良だったけど、こんな悪い人じゃなかった。どこか憎めなかった。今は、あんな悪い奴になっちゃった。愛し合って子供まで出来た仲なのに、同情する気も湧かない。でも、目の前で殺されたと思うと身も凍る思いです。見知らぬ男たちも地べたに倒れていました。みんな死んじゃったんだよね?
「オバサンだいじょうぶ?」
——オバサンって誰のことよ~!
オバサン呼ばわりは少しムッとくる。でも許しちゃう。
顔つきは精悍だけど、何処かあどけなさが残っています。言葉遣いはぶっきら棒だけど、不快じゃない。悪気はないのよね。
そんなイケメンにお姫様抱っこされてました。
鷹のように鋭い目つき。きっと、この子が殺したに違いない。殺気に溢れているのに恐くない。私を見る目は何だか優しい。若い頃の倉高健みたい。仏頂面だけど、私を見るとき微かにはにかむ。むっつりさんなのかしら?
「私どうしたの?」
「オバサンが危なかった。それ見て、ブチ切れたんだ。ついつい殺しちまった。後悔は無いさ」
「私の為にヒト殺しちゃったの?」
「そうだよ。オバサンが酷い目に遭わされるよりは好いさ」
「私なんかの為に、あなた一生棒に振るかもしれないのよ?」
「俺は、それでも後悔しないさ」
私を守るために人殺し。そして私を優しく抱き上げてくれている。アクション映画のヒロインになったみたい。キュンとしちゃう。もう、私も彼を放って置けません。私も彼のためにナニかしてあげたい。
でも、人殺しの現場なんて初めて見ました。動転してジタバタしそう。でも逞しい少年に抱っこされて全く動けない。このままナニされても抵抗できない。もうナニされてもいいわ。お胎の底から疼いてきちゃう。
「ねぇ私を置いて逃げてよ。私が捕まっても構わない。あなただけでも逃げてよ」
「オバサンを置いて行けないよ。安全なところまで送るよ。俺の命に替えてでも、オバサンのこと守るよ」
オバサンって言い方が引っ掛るけど、キュンと来ちゃう。これって、やっぱ映画の中のワンシーン?
私、ドボンガールになったのかしら?
ドボンガールって、私くらいの年齢の女優さんもいるわよね。
この男の子はジェイムズ・ドボンみたいな女たらしじゃない。全然洗練されてない。武骨で野性的で、ストイックな所が格好い。このまま攫われて何処かへ連れてってほしい。どんどん下着が湿ってきました。そして私の服もポツポツ濡れ始めました。
突然、彼の顔が照らされました。
——ゴロゴロゴロ……ドッカーン!!
雨が大粒になりました。まるでシャワーみたいです。やがてバケツをひっくり返したような豪雨に変わりました。
彼は、私をお姫様抱っこしながら走ります。私のために息を切らしている。重くてごめんなさい。私のためにズブ濡れになっている。これが水も滴る好い男ね♡
ナニも言ってくれないけど、物凄い愛を感じちゃう。今迄こんな男に出遭ったことが無い。精悍だけど、あどけなさが残る顔、見てるだけで、うっとりしちゃう。なんだか初心そう。そこが堪らないわ。そんな、モノ想いに耽ってる中に鉄橋下に運ばれました。
寒い寒い寒いーーー!!!
鳥肌が立つ。でも心は熱く燃え上がっています。
「風邪ひいちゃうわ。脱ぎましょう」
脱ぎにくい。濡れた服が重い。彼は私から目をそらしています。木片を集めて黙々と火を起こしています。器用ね。頼りがいあるわ。でも、濡れた服を着たままです。
「あなたも脱ぎなさいよ。風邪ひいちゃうわよ」
「俺なら大丈夫っす」
全裸姿の私から目をそらしています。
「脱いで脱いで、私みたいなオバサンなんて何とも思わないでしょ?」
「いや大丈夫ですって」
「駄目よ。こういう時は人肌で体を温め合うのよ」
ついさっき男の人たちから襲われてたのが嘘みたい。今は私が彼に襲い掛かっています。まるで子供を脱がすように彼のタンクトップを脱がしました。オムツを取り換えるように、ズボンを脱がしました。彼が本気で抵抗したら、私なんかじゃ敵わない筈です。テントを勃てた最後の一枚も剥ぎとりました。心の底から私に喜んでくれています。
「私だって寒いのよ。温めて」
「ぅん……」
肌と肌を重ね合わせました。体温が伝わって来る。汗臭さが心地いいわ。
「俺、臭いますか?」
「全然臭くなんかないわよ。男の人の汗の臭い嫌いじゃないわ。それに、私こそ臭くて、オバサン臭いから、オバサンって呼ぶんでしょ?」
「オバサンは臭くなんかない。とっても好い匂いする。なんか懐かしい匂いだ。すっかり忘れてた」
本当に心地よさそうに匂いを嗅いでいる。とっても恥ずかしいけど、物凄くうれしい。これって殺し文句?
「そういえば、お礼が未だだったわよね」
唇を奪うと、彼は石のように固まりました。懐かしい味がする。初めは私が一方的に彼を愛撫しました。やがて、彼の方からも私を求めてきました。そして私と彼は生まれたまま姿になり、最後の一線を越えようとしました。
「未だ名乗って無かったわよね。私はマリヱ、あなたのお名前は?」
「イサヲ」
懐かしい名前!?
生き別れた息子と同じだわ。思い出した時、すでに二人は一つになっていました。体中が彼で満たされました。
いままで感じたことのない感覚だわ。快楽を超えた心地よさ。性的快感とは別ものでした。僅か一瞬がとても長く感じました。時間が止まったのかしら?
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