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 莉茉は乗ってと言い僕は莉茉の車に乗った。他にも久しぶりくらいは言ったかも知れない。会うのは大体一年ぶりくらいだったろうか。

 僕らは大学の同期で、学科は違ったけど部活で知り合って、お互い部活の中ではマイノリティな学科出身ということから、なんとなく同期の輪の外で目が合って、でも気が付いたら莉茉は同期の中心になっていて、僕は莉茉に引っ張り上げてもらった気分で同期の奴らと仲良くなれていったけど、莉茉との二人きりが楽しかったものだから何だか惜しい気もして、でも絶対そんなこと思ったらいけないことも分かっていて、それでもやっぱり莉茉は大学で出来た初めての大事な友人で、莉茉も同じように思ってくれていたのか僕の扱いは他の男たちとは違って、僕とは二人で飲みにも行ったし、僕が混ざっていても女子会なんて言って同期の女たちと一緒に飲んだことも何度かあって、二回生の暮れの頃に莉茉に彼氏ができるとさすがに二人で飲んだりすることは無くなったけど、部室で二人きりになったときなんかは彼氏の愚痴を聞いたりして、最終的には結局惚気に着地することを知ってはいたけど何かを期待して、ある言葉を期待して、最後の最後まで話に付き合って、莉茉は笑顔に変わって部室を出て行ったのをよく憶えている。

 そんな思い出話を僕は助手席に座ってした。午前一時、ステレオからはラジオが流れており、莉茉がラジオを聞くなんて知らなかったけど、「ラジオとか聞くんだ」と聞けない代わりにハンドル握る莉茉の横顔にさざ波な視線を送った。バナナマンのバナナムーンGOLD。深夜のメジャー帯だ。時折、会話が途切れたって脈絡なくラジオは繋いでくれた。

 莉茉にこの旅の目的を聞くと月だと言った。言葉通り僕らは月を見詰めて車を走らせ続けた。山の影に月が隠れれば南を信じて進路を選んだ。小さな田舎町はすぐに外れまで来て街灯がとんと無くなっても、月だけを見ている莉茉は気付いてもいないように見えた。走るほどに下るほどに林深くなり、糸杉のようにすらりと並ぶ木立が易々と遮ってしまっても滲む木漏れ日を目指した。下りは登りに転じ峠を越えると田園が広がっているようだったが、均された平地はしんそこ暗闇だった。しばらくして大きな街に出る頃にラジオ番組はエンディングを終え、莉茉はステレオを切った。ネオンの落とされた百貨店、光ひとつない黒一面なガラスウォールをしたオフィスビル、通りを歩く人が居ない。時折、対向車線を白い光が行く。午前三時の街は午後三時の街の表と裏だ。街に気配はなかったが、何かの意志があるように思えた。それは昼間の人の残滓なのか、これだけの文明を築き上げた人類のものなのか。僕にはそれは人に由来する意志ではなく、建物や街そのものに宿った意志のように思えて、何だか落ち着かなかった。

 コンビニに寄り、一度だけ休憩をした。お菓子や飲み物を買いトイレを借り僕らは車に戻るとまた、月を目的として発車した。

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