第43話

 いけども、いけども、黒が広がる世界。

 途方に暮れた。

 なんなんだこの世界は。

 一面は黒いが自分は見えている。

 前の世界なら光がないと物は見えないはずだが、どうなっているのだろうか。

 何日も自分以外なにもない、なにも聞こえない状態に限界を迎えた。

「誰かいないのかあああああああああああああああああああああ!!!!」

 膝を折る。

「ちくしょお」

 傷は癒えたけれども、力を使い切ってしまった今のヘレルには元の世界にもどるすべはなかった。

苦しい。

 一人でいることがつらい。

 ついに死にたくなってきた。

 だが死ぬわけにはいかないのだ。

 彼女は俺に死ぬなと願ったと奴は言っていた。

 なら、死ぬわけにはいかない。

 ヘレルは音の無い世界で、彼女の弾いてくれたピアノを思い出す。

 なぜだか涙がでていた。

彼女には強さがあった。

 優しさという強さが。

俺の病んでいた心を癒やす心を。

 今の俺は優しさなんてどこかに置いてきてしまった。

 彼女の優しさが恋しかった。

優しさの部分と分離してしまったが、必要だと感じた。

 人を思いやる優しさは強さだ。

 その強さがないと心が折れてしまいそうになる。

約束を守りたい。

 俺にはあいつが必要だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る