第40話
ヘレルは隅にある黒に目を止めた。
「ピアノがあるのか」
席をたち、ゆっくりと近づいて、鍵盤の蓋を開ける。
ドー
ドー
レー
ミー
「少し習ってればよかったか……」
「ピアノ弾けるの?」
萌が近くによってきた。
「いや、聞く方専門だったね」
「じゃあ、あたしのピアノ聞かせてあげるよ」
萌は勢いよく椅子に座ると、音を奏で始める。
それは聞いたことのある曲だった。
優しい、優しい旋律、楽しい思い、子馬が飛び跳ねるように、彼女の弾いてくれていた引き込むような、音に没頭させてくれるようなものではなかったけれど、つたないけれど、たしかにこの曲は彼女が僕のために弾いてくれたあの曲だった。
「どう?」
と萌は振り向いてこちらを見る。
「どうしたの?」
萌が心配そうに話しかけてきた。
「いや、へたすぎて泣けてきた」
「もういい!」
萌は頬を膨らませて、テーブルに戻ってしばらくふてくされていた。
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