第35話

 その牢獄は氷でできていた。

 その氷は牢獄だった。

中に入る前から冷氣が肌に伝わってきていた。

 寒いのではない、もはや痛いのだ。

 口から漏れる息は白くなっている。

 牢獄に入れられたヘレルは、手足を錠でつながれた。

床と接している足は徐々に凍りついていく。

迎えに行かなければ。

 生きなければならない。

 彼女との約束を守るために。

異界にいる自分が一人で苦しんでいるのがわかる。

このままじゃ死んでしまう。

 自分を助けに行かなければならない。

 もう一人の自分と別れても、何も解決なんてしていなかった。

 逃げても楽になっただけだった。

 あの時は必要だったのかもしれないけれど。

 向き合わなければいけなかった。

 自分自身と。

 自分の弱さと。

 他のものたちと。

 自分を偽ることなどできない。

 もしできたとしても、それは自分ではない。

 変わらなければ……

 自分と向き合える自分に。

 考えているうちにヘレルは氷と化していた。




 だしてくれ。

 ここから。

行かなければいけないのに。

 あるのは絶望だけだった。

 何もできなかった。

 為す術はなかった。

 凍りついたヘレルの目元からは、ポロリポロリと氷の粒が落ちる。

 だれか……

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