第31話

「綺麗だね」

「死んでもいいわ」

「馬鹿か」

二人はくつくつと笑いあう。

 広がる星々が湖に映り込んで、まるで夜空に浮かんでいるようだ。

プカリとゴムボートで漂っている。

「ねえ、命が尽きたらどうなるのかしら。私時々考えちゃうの、寝てるときみたいに全く意識が無い状態が永遠に続くのかなって。不思議なもので、このままずっと生きていられるんじゃないのかなって思ったりするわ、けどそんなのあり得っこないし」

「そなたが望むのなら、僕が叶えてあげるよ」

 少年は何かを探るように私の手を握る。

 私は握り返してヘレルを見つめた。

「いらない」

「そんなの違うわ、私は精一杯生きてるから、もし明日死ぬことになっても後悔なんてないのよ、もう十分生きさせて貰ったわ」

「本当だったら、もう死んでるんだからこれだけ生きてこられて、ほんと幸せよ」

ヘレルは寂しそうな感情の欠片をチラと表情にだしてから、視線を空に向ける。

「そなたが死んだら僕も死のうかな、もうそなたと一緒にいることが生きる目的になっている」

「ばか」

「あなた今まで何年くらい生きているの?」

「さあ……わからないけど、遠い昔から人間を見てるから、何年も、何年も、普通の人間の寿命など軽く超えてるよ。もう、あきたな……」

「長く生きるってのも大変みたいね……」

「そう捨てたものでもない、そなたに出会えたのだから、長生きも悪くない」

 私は胸が熱くなった。

「よし、いいものを見せてあげるよ」

 ヘレルが人差し指でヒューン、ヒョイ!とすると、視界一面に流星が次々と降り始める。

「綺麗」

「ヘレル、あなたって凄いのね」

「いまさら氣づいたの?」

 願いごとをすれば絶対に叶うんじゃないか、そう錯覚させるくらいに流れ星はしばらくの間、降り続いていた。

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