第23話

 椅子から立ち上がり、寝ているヘレルに近づく。

 ヘレルはいつも横にならずに椅子に座って寝ていた。

「ちょっと、八時になったわよ」

 起こそうと肩を揺する。

「んがああああああ!」

 ヘレルは両腕(かいな)をぶんぶんと振り回してきた。

「うわっ、こいつ、なんなの!」

私は憤慨してショパンエチュード10の4を弾きまくった。

 起きろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!

激流の如く弾き終わり、ヘレルを横目に見ても全く起きる氣配が無い。

 手のひらを広げて鍵盤に叩きつけた。




 十二時を過ぎた頃。

 パッと目覚めたヘレルはテーブルについて冷めた朝食を食べ始めた。

「あーよく寝たな」

「ねえ、何時に起きてって言ったっけ」

「八時だな」

「今何時か知ってる?」

 ヘレルはちらと時計を見る。

「八時を四時間ほど過ぎた頃だな」

 私は椅子に座りながら、頬を膨らませていた。

「眠たかったからな、眠いときは眠る」

「あーそうですかー」

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