第21話

幾年月、人の生と死をみていたヘレルは疲れていた。

役に立たない者は見向きもされず、善良な者はばかをみて、好色者、大食漢、欲深い者と浪費者は欲望をむさぼり食い、憤怒者と不機嫌者は他人に悪影響を及ぼし、他人に暴力を振るう者、自分に暴力を振るう者、女たらし、おべっか使い、聖職売買者、汚職者、泥棒、詐欺師、不和をもたらす者、偽造者、血縁、国、大義、賓客、主人、恩人への不義理、不信、不実を働く者。

 流された血液、虚偽が渦巻き、欺瞞が横行し、あらゆる類いの忘恩と無規律、専制と反抗、背信、思いやりは無く、冷淡無慈悲、蛮行、あくどさ、厚顔、無恥さ加減、虚栄心、贅沢三昧、均衡と中庸は崩れ、放埒さだけが残った。名誉が追放され、公の場から真実は隠され、正義が崩れ去り、清廉が汚され、忠実は裏切りに。

もうこんなものは見たくなかった。

 嫉妬

 恨み

 悲しみ

 怒り

 恐怖

 憎しみ

 欲望

 恐れ

 怪しみ

 悔やみ

 惜しむ

 嫌う

 狡猾

 軽蔑

 苦悶

 苛立ち

 不安

 落胆

 敗北

 絶望

 失望

 劣等感

 罪悪

 恥

 侮辱

 後悔

 苦しみ

他人の負の感情が悪い影響を与えていた。

 凶暴な部分が暴れだしたくてたまらなくなる。

 感情という毒がヘレルを蝕む。














 嵐の去った平野の草には雨の雫がのっている。

 原っぱに寝っ転がっているヘレルは肌に水の粒がくっついて冷たいと感じていた。

 仰向けになって青空に手を伸ばす。

 その伸ばした手に吸い込まれるように雀がとまるとそっと手を閉じて捕まえた。

 捕まえたものとじっと見つめ合ってから手を離して空に放つ。

「よし、帰るか」

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