第18話

 くくくと少年は笑う。

「そりゃどうも」

「私は好きなことを好きなように好きなだけやっているのよ」

「しかし、あなた何者よここは……」

 ここは、私のために知り合いの魔法使いに作ってもらった特別な空間だった。

 私のだす音を誰にも聞かせないために。

 

 



人が寄りつかない山の中、湖に映った森の奥になにかの影が見える。

 私だ。

 湖に映っているだけで本当の森を見ても何も見えない。

 湖は鏡のようになっていて、湖のそばに広がる森が水の中にもあるかのように見える。

空が映りこみ、それは鏡の世界だった。

 風は凪いで水面は澄んでいる。

 空氣は冷たく、シンとしている。

 現実とは隔絶した空間、人の手で作られた場所。

私のための場所。

 私だけの場所……だったはずなのだが。

「あんたいつまでいるのよ」

「いつまでも」

「あんたバカ?」

 ヘレルは楽しそうに笑っていた。

「俺は、疲れたのだ少し休みたい」

「なんに疲れたのよ」

 問いは返ってこず、目の前の少年はどこか虚ろな目をしていた。

「俺は決めたぞ、そなたを好きになろうと思う」

 私は頭をかかえた。

「なんでそうなるのよ」

「俺は好きというものが何かよくわからぬのでな」

 ヘレルは私の弾くピアノを何日も聞いていてくれた。

 久しぶりに誰かに聞いてもらうのは嬉しかった。

私の演奏は人の命を吸う。

長く聞けば聞くほど命を私に奪われていく。

 病弱だった私に、音楽の精霊がくれた魔法の贈り物。

 私に死んで欲しくないと思っていた音楽の精霊のおかげで今まで生きてこられた。

 最初は魔法の力で元氣になっているとは氣づかずに人に聞かせていたが、私のまわりで元氣を失っていく人達がいた。

氣づいた頃にはもう遅かった。

運命はなんて残酷なのだろうか。

 私は人にピアノを聞かせるのをやめた。

 ただ、魔の素養のある人間は聞いても問題がないので、ごくたまに聞いてもらったりしていた。

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