第17話

長い指が触れているのは黒と白の鍵盤。

 鍵盤が押されると、単純な音が聞こえる。

 単純な音が連なり、旋律が耳に心地よい。

カーテンがはためく、あたたかな音色が窓の外へ解き放たれていく、メロディには、色があり、匂いがあり、感情があった。

 音楽が楽しかった。音を楽しむと書いて音楽、演奏をしている間のこのひとときが生きていて良かったと思える最高の瞬間だった。

演奏をするためならどんなにつらくて苦しいことがあろうと平氣だった。

 ピアノの声を聞き。

 一緒に奏でていく。

 一つになる。

 深く。

 深く。





パチ、パチ、パチと、手を叩く音が聞こえた。

 私は瞬時に振り向く。

「誰!?」

 そこには、綺麗な顔の造作をした少年がいた。

「よい音色だな」

入り口が開いている様子は無い。

「あなたどこから入ってきたの!」

「俺は、どこにでもいて、どこにもいない、どこからでもはいれるのさ」

「なにいってるのあなた?」

「あなた人間じゃないの?」

「さあな、なんでもいいだろ」

 恐ろしくなった。なんなのだろうかこの子は……私の演奏を聴いて平氣ってことは普通の生き物ではないのは間違いがない。

「よかったら、また弾いてくれないか、そなたの奏でる音は聞いていてこころよい」

 私は何秒か思考した後、ピアノに向かいあった。

 ふーと息をはく。

 聞いてくれる人がいるならまあいいか。

 少年がどういう存在かはどうでも良かった。

















「そなた、こんな所で何をしているのだ」

「ピアノ弾いてるだけだけど」

 ふっと少年はふき出した。

「そんなに楽しいのか」

 ええと私は答える。

「しぬほどにたのしいわよ」

「姿を現す前にしばらく様子を見ていたが、ここからほとんど出ずにピアノを弾いておるのか」

「くるってるな」

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