第7話当たって砕けた

美樹と羽弦は、店内に入った。

「あら、いらっしゃい。何、羽弦ちゃん、可愛い女の子連れてきて」

女将のばあちゃんは、そう言うとカウンター席のオヤジどもが、美樹の姿をチラ見している。

2人は座敷席に座った。

美樹は何回か先輩とこの店に来ているので、おでんの5種盛りと豚足、生中を二杯注文した。

「手際がいいね。美樹ちゃん」

「ま、まぁ常連ですから」

「それよりさ、美樹ちゃんその胸を強調している服はどんな意味だい?」

美樹は困った。神様から言われたと言えばメンヘラ扱いされる。

「暑いんで、薄着にしました」

「そ、そうか」

ババアが生中を運んで来た。

乾杯をして、美樹は喉を鳴らして生中を飲んでいる。


ふごっ、ふごっ、ふごっ


プッハー


「いい飲みっプリだ!今夜はとことん飲もうよ」

「はいっ」

真っ黒なおでんと豚足が来た。

「羽弦さん、おでん何食べますか?」

「え~、玉子」

「じゃ、わたしは大根」

この店の看板メニューだから、旨いの当たり前だが、ビールが進む。

おかわりを羽弦が注文した。

女将のババアが、

「羽弦ちゃん、今夜はこの子を食べるのね?」

「ば、ババア。何言いやがる!勤務時間が一緒だったから誘ったんだ」

「ハイハイ、まっこと太か乳が好きなアンちゃんですばい」

「先輩、おっぱい好きなんですか?」


ブーッ


羽弦はビールを吹いた。

「お、男だからね~。でも、それが目的じゃ無いよ!」

豚足と格闘している美樹を見ながら羽弦は言った。

「実は、職場である、おまじないを聞いたんだ。A4サイズのコピー用紙に五芒星を書き、豚のレバーとろうそくに火をつけたら、美しい女の神様が出てきてさ、あっ、まだ酔っ払ってないよ」

美樹は、食べるのを中断して、

「どうなったんですか」


「その神様が美樹ちゃんと飲めって言ったんだ。それで、誘ったの、ゴメンね」

美樹はジョッキ片手に、

「信じます。その話し。わたしも神様に言われてこんな格好してるんです」

羽弦はタバコに火をつけて、

「僕たち、運命的なのかな?」

美樹は、イケメンで仕事のできる羽弦が『僕』と言うのが、ギャップ萌えして胸が高鳴る。

「そろそろ、焼酎飲もっか?」

「はい」

「おい、ババア、キープのボトル下ろして」

「ハイハイ、おっぱい星人」

「アハハハ」

美樹は大笑いした。

それから、仕事の話し、恋愛の話しに華が咲いた。

「ババア、おあいそ」

「ハイハイ、5800円ですばい」

「じゃ、1万円」


2人はしばらく歩き、コンビニに寄った。

「美樹ちゃん、僕んちで二次会しようよ」

「それもいいですね」

「森伊蔵があるんだ」

「わっ、すごい」

適当につまみを買い、羽弦の賃貸マンションへ向かった。

部屋は、男の部屋だった。清潔感はあるが、本棚に哲学書や園芸のテキストが並べてあり、ベッドには読みかけの東野圭吾の小説が転がっていた。

デスクがあり、資料が散乱していた。PCも資料に埋まっている。介護職員の部屋ではない。研究者っぽい、感じが伝わる。


「羽弦さん、何の研究してるんですか?」

「研究?あ、資料ね。実は小説書いているんだよ。面白くない作品ばかり」

「でも、スゴいです」

「さっ、座って。森伊蔵を飲もうよ」

2人はちゃぶ台を囲み、ロックで飲み始めた。

「先輩、今夜は楽しかったです」

「そう?いつでも、僕を捕まえてよ。飲みに連れて行ってくれるから」

「本当に?」

「うん」

「わたし、先輩の事が大好きです」

「ぼ、僕も美樹ちゃんの事、好きだよ!」

美樹は目を閉じた。そして、羽弦が顔を近付けた。

その時だ、美樹は目をカッと見開いた。

「は、吐きそうです」

羽弦は美樹をトイレに連れていった。

美樹は盛大にリバースした。背中をさすってあげた。

もう、全てをリバースした美樹はうがいをして、羽弦のベッドでバタッと倒れイビキをかきながら寝てしまった。

羽弦は、ちゃぶ台を片付けて、ベッドの下に毛布を敷き深い眠りについた。

美樹は大失態を起こしたが、どうなる事やら。

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