第12話

 所謂、塩害と言うやつだ、とジェシーは続けた。

 一同は何も言わず、ジェシーを見た。

 まずは、ハルに向けて言葉を投げる。


「花の絵を描いた、商会の職員。

 その職員の住んでた部屋の説明、覚えてるか?」


 言われ、ハルの脳裏に商会の担当者とのやり取りがフラッシュバックする。

 短いやりとりの記憶が、映像となって流れ、やがてその場面を、ハルは鮮明に思い出す。


 ――聞いたところによると、その部屋は職員が実家から送ってもらった漬物が容器ごとひっくり返って散乱していたとか。

 その中に件の花弁が、溶けかけた状態で落ちていたらしいのです――


 担当者の声まで鮮明に思い出す。


「あ、漬物……」


 そう、散乱した漬物の中で【花】の花弁が溶けかけた状態で見つかっていたのだ。

 ハルの様子に、ジェシーは満足そうな笑みを浮かべると、今度は食堂にいる全員――同行者D、航海士、砲撃手、船医、料理人――をぐるりと見渡して、続けた。

 ちなみに、船長と副船長はブリッジである。

【花】の監視をするためだ。

 この一連の説明は、通信魔法で届いているはずである。


「【花】が生えていたのは、島の内陸部で洞窟の入口近く、陽の当たる場所だった。

 一方、砂浜、海岸の近くには視認する限り一輪も【花】は咲いていなかった。

 これだけでも、【花】が一定の塩分濃度に弱いって裏付けになる」


 航海士が口を開いた。


「それじゃ、塩を撒けばいいと?」


「極端なことを言えばそうなんだけど。

 俺たちが生き残ったまま、積荷やこの食堂、厨房で使われてる備品の塩を大量に使ってみろ。

 商会側にその事つつかれて、アンタらは良くて減給、俺たちは報酬を渋られる可能性がある。

 まぁ、船を傷つけてもそれは同じだが。

 だから、【花】をなるべく船を傷つけないように甲板まで誘き出して、海に落とすのが一番無難だと考えてる。

 船をあちこち壊していいってなら、話は別だけどな」


 ジェシーにとって一番手っ取り早い方法は、船を沈めることだ。

 でもそんなことをしたら、賠償諸々で笑えない事態になることは明白だった。

 なによりも、ジェシーは兄たちと違ってまだ常識がある方だ。


「でも、誘き出すって。

 いったいどうやるんですか??」


 ハルが疑問を口にする。


「貨物室行って、【花】の根っこをさっきみたいに引きちぎって逃げれば追いかけてくるだろ」


「言うのは容易いですけど。出来るんですか??」


「俺なら出来る。

 出来ないことは口にしない主義なんだ」


 事実として、Dというお荷物を抱えながらジェシーは逃げ切っている。

 と、そこで船が大きく揺れた。

 そして、気まずげな副船長の声が届く。


 ――あー、その手間はいらなさそうだ――


 また、船が揺れた。

 今度は、爆発音のようなものまで聞こえてきた。


 ――【花】が貨物室の扉を破壊して、出てきた――


 副船長の言葉に、食堂にいたジェシーとハルを除いたもの達が、顔をこわばらせる。

副船長が、さらに爆弾を投げつける。


――今、食堂そっちに向かってる――


その中でジェシーは獰猛な笑みを浮かべた。

ハルは、それを見て呆れている。


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