第10話
生き残った捜索隊のメンバーは、まずシャワーを浴びた。
とくに、ジェシーとDは念入りに体を洗う。
それから食堂に戻り、船医と料理人へ何が起きたのか説明する。
船長と副船長へは、航海士が報告した。
そして、
――ジェシー殿とDさんは、一旦、隔離しよう――
船長からそう提案される。
それは、仕方の無いことだった。
万全の準備はしたが、貨物室での戦闘で寄生されていないとは限らないのだ。
船長室から確認した限りでは、二人に【花】の反応は今のところなかった。
しかし、今、反応が無いだけかもしれない。
これから、その反応が出てくるかもしれない。
そんな疑心暗鬼が、ハル以外に灯る。
「なんで、なんで、私が!?
私は被害者なのよ!?
もう少しで食われるところだった!!
それに、私たちはちゃんと注射してるのに、大丈夫のはずなのに」
Dは、悲痛な声を上げる。
そして、Dはキッとジェシーを睨みつけた。
「アンタが私に触るからこんなことになったんだ!!」
滅茶苦茶な論理である。
しかし、ヒステリックに叫ばれてもジェシーは余裕だった。
「じゃあ、あの【お花】のご飯になりたかったと、そういうわけですね。
じゃあ、次からは助けません。
まぁ、監禁というか、軟禁というか、隔離されるんで助けることは出来ませんので。
次からは自分で頑張ってください」
ニッコリと笑顔で嫌味ったらしく返されると、悔しそうにDは黙った。
「問題は監禁時間ですね。
おそらく、数時間から十二時間前後で体調不良等の症状が出るはずです。
前の調査隊の6人と、Aさんが、ちょうどそれくらいでああなったと思われるので」
ジェシーは、落ち着いたままそう説明し、食堂にいる一同を見回して、続けた。
「隔離場所は割り振られた部屋で良いでしょう。
中から施錠して、外からも物かなにか置いて出られないようにしましょう。
これで、さっき言った時間ジッとして、体調に問題がなければ安全のはずだ。
そうですよね?
船長さん?」
他に懸念事項があるとすれば、積んでいる荷の安全確認くらいだろうが。
これはジェシーとハルには関係ないといえば、関係ないことなのでそこまで気にしていなかった。
気がかりがあるとすれば、同行者たちに渡した採取した【花】くらいだ。
しかし、こんなことになった以上、無事とはとてもではないが思えなかった。
採取した【花】は全部で十輪。
暴れているのが貨物室のa区画で見た、あのデカい【花】だけとは限らない。
貨物室には、他にも区画があるのだから。
しかし、今のところ貨物室から出てきた形跡は無い。
出てきたら、ブリッジでわかるはずだからだ。
「ところで、次の港までは何時間かかりますか?」
――一番近い港までは、ざっと十時間くらいだな――
「それじゃ、ひとまずそれまでの時間、部屋で引き篭もりましょう。
連絡は、定期的に通信魔法で行えばいいですし」
話がどんどん進められていく。
そこで待ったをかける人物がいた。
砲撃手と航海士である。
「けれど、彼がいないと万が一の時に対処が間に合わないかもしれません」
「そうですね。
今のところ、あの怪物を相手に立ち回れたのは彼、ジェシーさんだけだ。
いざと言う時、ジェシーさんが動けないとなるとこの船は、最悪沈む可能性が高い。
なにせ、怪物は死なず今も貨物室にいるのだから」
ジェシーだけでも、監禁をなんとか出来ないか考える。
しかし、寄生されてるか否か、調べる方法が皆目見当がつかないのが現状だった。
「あの怪物が貨物室から出てこない、このまま扉や壁を破壊しないなんて保証は何処にもない」
重々しい口調でそう言ったのは、砲撃手だった。
そこで、話題の中心になっているジェシーが手を挙げた。
「なら、俺が体調不良が起こるかもしれない数時間後までに、あの【花】を倒すしかないか」
その場の全員が、ジェシーを見た。
ジェシーは、ポリポリと頭を掻きつつ、砲撃手と航海士を見る。
「普通の武器は無いか?
出来れば、
と、ハルが口を挟んだ。
「それなら持ってきてたじゃないですか」
「そういやそうだった」
二人のやりとりに、他の者たちはわけがわからなくて不思議そうにしている。
通信魔法で話を聞いていた船長が、ジェシーへ訊ねた。
――【花】には鉞が効くのかね?――
ジェシーは答える。
「わかりません。
ただ、俺たち農民の使う農具はちょっとした特別性なので、効果は少なからずあるかと思います。
あとは俺が実家にいた頃から使ってて、まぁ、手に馴染んでるってだけですよ」
――それじゃ、倒せる訳じゃないのか――
「それについては、可能性は少しだけですがあるんです。
まぁ、でもそれをするにはあの【花】を貨物室から外まで出す必要があるんです。
でも、その前に確認したいことがいくつかあります。
こっちは、もしかしたら当てが外れるかもしれませんが」
――確認したいこと??――
「えぇ、死んだCさんの部屋を調べたいんですよ。
その許可がほしい。
船長と、そして、Dさんに。
とくにDさん、これに協力してくれたらその分は護ることを約束しますよ?」
ジェシーはDに向かって、あの嫌味な笑顔を向けるのだった。
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