第9話

 最後の言葉がダメ押しになったのか、その場の実質的な主導権は、ジェシーが握ることとなった。

 つまり、【花】に襲われたところで助けないぞ、なぜなら契約に含まれてないからな、とこういう訳である。

 冒険者であるジェシーとハル。

 そして荒事にはそれなり慣れているという砲撃手。

 この三人はともかく、残る三人は戦闘経験ゼロの者達だ。

 Cは、Aが【花】に寄生されたことに関わっていると考えるなら、なにかしら【花】に対抗出来る手札があると考えられるが。

 少なくとも、現時点でCにはそんなものは表向き無いはずだった。

 だからこそ、怯えながら貨物室に通じる扉を開けた。

 しかし、入ろうとはしない。

 それを、とん、とジェシーはCの背中を蹴って中へ押し入れる。

 直後、他ならないジェシーがそれに続く。

 そして、その後から残りの者が貨物室へ足を踏み入れた。

 最初、貨物室は暗かった。

 しかし、ジェシー達が足を踏み入れた瞬間、自動で明かりがついた。

 そこには、だだっ広い空間が広がっている。

 コンテナが所狭しと固定され、並べられている。


 ペタン、ペタン。


 そんな独特の音が捜索隊全員の耳に届く。

 音は、すぐ近くで聴こえたのに、しかし音源が見当たらない。

 その時だった。

 捜索隊に影がさした。

 誰ともなく、頭上を見上げる。

 そこには、天井に張り付いた【花】がいた。

 その【花】が落下してくる。

 捜索隊が、【花】に押しつぶされないようバラバラに動く。


「いやぁぁあああ!!??」


 Dの悲鳴が響き渡る。

 彼女の足に【花】の蔦が伸び、絡め取り、捕食しようとする。

 ずるずると引きずられる。

 その先には、凶暴そうなギザギザの歯が乱雑に並ぶ【花】の口があった。


 ジェシーが動く。

 足で蔦を踏みつけ、蔦の動きを止める。

 それから、めん棒を蔦へ叩きつけた。

 ビクともしない。

 続いて、雷撃を食らわせてみる。

 モンスターなら、ダメージがあるはずだった。

 しかし、


 バチバチバチバチィィイイ!!


 盛大な火花こそ散ったものの、手応えが感じられなかった。

 ジェシーが踏みつけた場所を境目にして、【花】側の方の蔦がびったんびったんと暴れる。

 一方、D側の方は巻きついた彼女の足をギュウギュウと締め上げた。


「見た目植物なら、火が効くだろ!!」


 ジェシーは、料理人から譲ってもらったアルコール度数がいちばん高い酒を撒く、そして発炎筒で火をつけた。

 火は蔦から【花】本体へ移り、包んだ。

 しかし、ダメージは与えられなかった。

 なぜなら、すぐに消えてしまったからだ。


「マジかよ」


 声に楽しさを滲ませる。

 そこからの、彼の行動は早かった。

 手袋を嵌めた両手で蔦を掴む。

 同時に、足をどける。

 そして、


「ふんぬぅおおおお!!??」


 ブチブチブチィ!!


 めいっぱい、力を込めて蔦を引きちぎった。

 Dの足に絡まった蔦を解いて、【花】から距離をとる。

 捜索隊の残りのメンバーの位置を確認する。

 ハルが誘導したのだろう、残りのメンバーが入口に集まっていた。

 Dの素肌に振れないよう気をつけて、彼女を脇に抱える。

 そして、ジェシーはダッシュした。

 その時だった。

 背後の、【花】の方からBとCの声が聴こえてきた。

 罵りと、悲鳴だった。


「この、離せ!!××野郎!!」


「こんな、こんなの、話が違う!!

 やめろ、やめろぉおおお!!??」


 その声に、ジェシーは振り返った。


「あ、あああああ!!!???」


 同時に、Dから再び悲鳴が上がる。

 ジェシーとD、二人の目に映ったのは、【花】の蔦に捕らえられ頭から喰われているBとCの姿だった。

 二人をバリバリと【花】は食らう。

 すると、【花】の姿が一回りぐんっと大きくなる。


「まずいまずいまずい!!」


 ジェシーは一目散に、残りの捜索隊のメンバーが待つ入り口へ向かう。

 ハルが、砲撃手と航海士を外へ逃がし、ジェシーに早く早くと手を振っている。

 その背後から、【花】が追いかけてきた。

 蔦が伸び、ジェシーとDを捕らえようとしてくる。

 それを、ジェシーはひょいひょいと避ける。

 なんとか、出入口の扉までたどり着き、外へと転げでる。

 ハルがすかさず、扉を閉めた。


 ドン!ドン!!


 蔦が、扉を壊そうと叩いていたが、どうやら扉の強度の方が勝ったらしく。

 やがて聞こえなくなった。

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