第8話
貨物室に向かう道すがら、ジェシーは砲撃手へと声をかけた。
「なぁ、Eが襲われた状況について確認したいんですが」
そう前置きして、砲撃手から見たその時の状況を訊ねた。
「Cの話だと、【花】は天井から落ちてきたんですよね?」
「あぁ、そうだ」
「その瞬間、つまり【花】がEへ落ちてきた瞬間を、貴方は見ましたか?」
そこまで言った時、砲撃手はなにやら複雑そうな顔をした。
「そこまで丁寧な言葉遣いは、俺には不要だ。
なんというか、むず痒くなる。
無理にとは言わないが、俺みたいな言葉遣いが出来るならそうしてくれ」
「……わかった。
それでどうなんだ??」
ジェシーは砲撃手の頼みを快諾しつつ、質問の答えを促した。
「俺が見たのは、【花】の蔦に足を捕まれ引きずられつつあるEの姿だった。
だから落ちてきた瞬間は見ていないんだ」
「おや、じゃあなんで落ちてきたって分かったんだ??」
「それは、Cがそう言ったんだ。
俺がCとEの先頭に立って進んでいた。
Eの悲鳴で振り向いたら、さっき話した状態で、Cが『上から落ちてきたんだ! 天井に張り付いてたんだ!』って叫んだんだ。
そうこうしているうちに、Eは食われちまった」
「なるほど」
Cには不審な点がある。
島に上陸して、【花】が生えていた洞窟へ向かう際や、それ以外の場面でリーダーシップを取っていたのは彼だった。
【花】を採取した後、別行動しようと言い出したのも、思い出してみれば彼だった。
Eの事だって、Cが仕組んだように見えなくもない。
Cがその事で錯乱したように見えたのも、白々しいというかわざとらしいように見えた。
だが、確証が無い。
あくまでこれは、状況からそう見えているだけだ。
と、ここでジェシーは思い出した。
Aと最後に顔を合わせたのは、ハルだった。
ハルは、Aとの遭遇については簡単に説明しただけだ。
その時のことを詳しく聞いたわけではない。
ジェシーは砲撃手へ礼を言って、今度はハルへと声を掛ける。
それとなく、二人は一番後ろへ下がり言葉を交わす。
「島から戻ってきた後、Aと遭遇したって言ってただろ?
その時のことをもう少し詳しく話してくれ」
ハルは頷いて、声を落とし、その時のことをジェシーへ話した。
ジェシーは満足そうに頷く。
「なるほどな」
ジェシーは呟くと、前を歩くCを見たのだった。
程なくして、貨物室へたどり着いた。
扉は、船員か同行者のどちらかでないと開かない仕組みになっている。
それが問題となってしまった。
誰が開けるかで同行者達と砲撃手の間で口論となってしまった。
『戦える砲撃手が開ければいい』と同行者達は口々に言い、砲撃手は砲撃手で『そもそもこんなことになったのは、お前たちのせいなんだからお前たちの中の誰かが開ければいいだろう』となったのである。
早い話が、扉を開けたら【花】に襲われるかもしれない。
喰われるか寄生されるか、どちらにせよ武器を手にしているとは言え特攻役となるのは避けたかったのである。
これは、仕方ないだろう。
誰だって命は惜しいものだ。
ある程度、そのやりとりを観察した上でジェシーは助け舟を出した。
「Cさんが開ければいいのでは??」
ハルと砲撃手以外の、つまりは同行者達の目が見開かれる。
「先程、そちらの砲撃手さんに聞いたんですけどね。
Eさんが襲われた時、Cさんは位置としてEさんの一番近くにいたらしいですね。
にも関わらず、Cさんは【花】の標的にはならず生き延びている。
つまり、この中で一番生存できる可能性が高いんじゃないんですか??」
Cが何か言おうと口を開くが、それよりも早くジェシーはBとDへ言葉を投げた。
「BさんとDさんは、そうおもいませんか?」
ジェシーの言葉に、BとDは困ったように視線を交わす。
続いて、さらにジェシーはCへこう言った。
「それとも、Cさん?
まさか、【花】に襲われなかった理由があるとか、そんなこと無いですよね??」
Cがジェシーを睨みつける。
「なんの話しですか??」
ジェシーは実家にいた頃、兄弟達をからかって虐めていた時の、とても悪い笑顔を浮かべると、返した。
「さて、なんの話しでしょうね??
痛っ!!」
さすがに悪ノリしつつあることに気づいたハルが、ジェシーの脇腹を小突いた。
ジェシーは時折、こういった悪いスイッチが入るのだ。
「あぁ、そうだ。
一つ言い忘れていたことがありました」
ジェシーは小突かれた所をさすりつつ、同行者たちへ言った。
「俺たちが、あなた方が所属する商会から受けたのは【花の採取依頼】
どういう意味か分かるよな?
そんな挑戦的な笑顔を、ジェシーは同行者たちに向けたのだった。
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