第6話

「貨物室を調べた方がいいんじゃないんですか??」


 Bの言葉を受けて、ハルが提案した。

 BとDが目配せする。


「Cに連絡をとるから、あっちの班に確認してもらいましょう」


 Dがそんなことを言った。

 おそらく、部外者であるジェシー達を貨物室に立ち入らせたくないのだろうと思われた。

 Dはこれに賛成する。

 ジェシー達も、自分達が雇われてはいるものの商会の人間ではないことを重々承知していたので、とくに反対することもなかった。


 連絡は、Bから通信魔法で行うことになった。

 とはいえ、そのやりとりは共有されているので、ジェシー達にも聞こえるようになっていた。


 しかし、Bが連絡を取ろうとしたまさにその瞬間。

 Cから、通信魔法によって声が届いた。


 ――まずい!――


 切羽詰まったCの声に、ジェシー達に緊張が走る。

 おそらく、あの花を見つけたのだろうと察し、同時にトラブルが起きていることを感じ取ったからだった。


「どうしたの?!」


 Dが叫ぶ。


 ――Eが!!――


 もう一度、Cは同じことを繰り返した。


 ――Eが、花に喰われた!!――


 訳が分からない、とBとDが顔を見合せる。

 そこに口を挟んだのは、ジェシーだった。

 つとめて、冷静にジェシーはCへ言葉を投げた。


「花に襲われたんだな?

 そして、今避難してるのか??」


 丁寧な言葉ではなく、淡々と簡潔に尋ねる。

 Cが返してくる。


 ――あぁ!!そうだ!!――


「喰われたのはEだけか??

 お前と、砲撃手に怪我は??」


 ――無事だ!!――


「わかった。

 ……一度合流しよう。

 食堂まで来てくれ」


 ――わかった!!――


 そこで通信を一旦終了させる。

 そして、ジェシーはBとD、ハルを見て言った。


「聞いてただろう。

 一度食堂に戻ろう」


 誰も反対しなかった。


 ***


 ジェシー達が食堂に戻ると、Cと砲撃手が顔を青ざめさせて待っていた。

 料理人が温かい飲み物を出したが、手をつけていなかった。

 船医も先に彼らから話を聞いたらしく、難しそうな顔をしていた。

 そこに、航海士が船長と副船長をともなって現れた。

 船の操縦は、自動操縦に切り替えたらしい。

 船内でなにが起きてるのか、話を聞きに来たのだ。

 なにしろ、彼等が事前に商会から説明されていたのは【花の採取】であったからだ。

 それを持ち帰ること、くらいしか聞いていない。

 だというのに、蓋を開けてみれば新種、つまり未知のモンスター騒ぎとなっていたのである。

 これは一体全体何事だ、となるのは当然だった。

 しかし、こんなことが起きたことは同行者達にとっても想定外の事だった。

 人に寄生し、行動できる花の存在など知られていなかったのだ。

 モンスターだったのなら話は早かった。

 けれど、おそらくあの花はモンスターとも違う存在なのかもしれない、とジェシーは考えていた。

 理由はいくつかある。

 たとえば、花の絵を描いた商会の職員。

 その職員の自宅を調べた捜査関係者から、商会へなんらかの報告があってよかったはずだ。

 でも、ハルが調べた限りそのようなことは無かった。

 仮に商会へ報告していなかったとしても、ハルの情報網に引っかからないはずがないのである。

 だからこそ、ジェシーは捜査関係者の中ではあの花は【モンスター】扱いされていないのではないかと考えていた。


「とにかく、その【花】を駆除するのが先決だろう」


 船長はそう言って、ぐるりと一同を見回した。

 それに待ったをかけたのが、Cだった。


「貴重なサンプルの一つだ。

 殺すのは避けたい」


 その場にいた、Cを除いた全員が何言ってんだこいつ、という顔になる。

 そこで、ジェシーは手を挙げて進言する。


「駆除にしても、捕まえるにしても、素手では無理です。

 確実に寄生され、Aさんや話に聞いていた六人のようなことになります」


「六人??」


 船長がジェシーを見返した。


「商会から話を聞いていませんか??」


 ジェシーは、この依頼を受けるにいたり、担当者から受けた説明をそっくりそのまま話した。

 船長がなにか言いたそうに、同行者を見た。

 しかし、同行者達は視線を逸らしてしまう。


(おや、これはこれは)


 ジェシーはピンときた。

 船長達には何も伝わっていなかったようだ。

 少なくとも、商会からは何も説明がなかったのだろう。


「話はわかった。

 作業用の手袋があるから、それを用意させる」


「ありがとうございます」


 礼は言ったものの、ジェシー達には自前の革手袋があるので同行者達用になるだろう。


「問題は【花】の位置ですね。

 Cさん達はどこで【花】と遭遇したんですか?

 それに、Eさんが【花】に喰われた、ということでしたが、つまりそれは私達人間のような口があったと言うことでしょうか?」


 そう訊ねたのは、ハルだった。

【花】に関して、なるべく多くの情報を得ようとC達へ言葉を投げた。

 C達は、ハルの問いかけにガタガタを体を震わせ始めた。


「あ、あぁ、そう、そうだ!

 花の中央、雄しべとか雌しべとかが本当ならある所に、口があったんだ。

 それでそれで……」


 Cが必死に説明しようとするが、途端にその言葉は悲鳴へと変わる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!?!」


 パニックを起こし、Cは蹲ってしまった。

 余程ショックな光景を見たのだろうと思われる。

 Cの代わりに、なにが起きたのか説明したのは砲撃手だった。

 それによると、どうやら【花】は天井に張り付いていたようで、それに気づかずに居たEの背中に落ちてきたらしい。

 いきなりの事にEはパニックになり、【花】を振り落とした。

 すぐに、一緒に行動していた同行者Cと砲撃手が【花】を捕まえようとしたが、それより早く【花】は蔦のようなものを伸ばし、Eを捕まえてしまった。

 ズルズルとEは、【花】の元へ引きずられ喰われてしまったらしい。


「俺たちは、逃げたんだ。

 逃げて、来たんだ」


 最後に砲撃手は、苦々しくそう締めくくったのだった。

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