なんでこうなる

「嗚呼、しんどかった。今日で一年間のお試し交際も終わりだな。さよなら。」

「えっ?」思わず立ち止まってしまった。「それってつまり……」

「うん。今から、おれたちは恋人じゃない。」


はぁーっと大きなため息が出た。よかったぁ……

ほっとしたせいで涙が出そうになってくる。こんなに緊張していたんだもん。仕方ないか。

だって

「山田君のこと......嫌いになってたんだ。わたし」

「へぇ~心底どうでもいい。」

びっくりするくらいあっさり過ぎて、これはこれでかなり気まずいんですけど……。

「あのさ。この前の遊園地デートの時に感じた違和感っていうか、モヤモヤの正体に気付いたの」

「ほぉ〜。それで?」

「わたしが好きなのは大翔なんだって気付いたの!」


…………あれ? 返事がないんだけど……。

顔を上げると、なぜか山田くんは無言のまま固まっていた。えっと、もしかして聞こえなかったとかかな?もう一回言ってみることにした。

「だからね。わたしが好きなのは―――」

「待った!!」突然の大声にびくっとしてしまった。

「何!?」一体何を言われるんだろうと身構えていると、彼は困ったような顔をして言った。

「悪いけど、死んでよ」


……はい?

「ちょっとよくわからないんだけど……」

「そのままの意味だよ。大翔が好きだから、大翔のことがを好きなおまえはいらない。死ね」

ひぃっ!! こわいこわいこわいっ!!!

「ど、どうしてそういうことになるの?」

「おまえには関係ない」

冷たい目つきに背筋が凍る思いがしたけれど、ここで負けてはいけないと思った。

「関係なくはないよ!だってわたしたち友達じゃん」

「違う」間髪入れず否定されて戸惑ってしまう。

「ち、違わないよ」

「大翔が好きなお前はおれの敵だ。死ね。」



うぅ……。

怖いよぉ。

でもこのままだと本当に殺されかねないし……。

「あ、あのね!勘違いしているかもしれないけど、私はそこまで君のこと嫌いじゃないよ!?」

必死に訴えかけてみたのだけれど、「うるさい」と言われてしまった。


「とにかく死ね。じゃないと殺すぞ。」



ガチだ。本気の目をしている。冗談じゃないよ。どうしよう。殺されるなんて絶対に嫌だ。

怖くて震えながらもなんとか言葉を絞り出す。

「やっぱり私は大翔のこと好きだよ。」

すると、山田くんは大きく舌打ちをした。

「死ね。」

苛立った様子で睨み、飛び掛かってくる彼をどうにか押し返す。

「やめてよっ」

腕を振り払うようにして逃れると、彼はさらに激昂した。

「いい加減にしろよ」


彼の手が私の首を掴んだ瞬間、思わず悲鳴を上げそうになった。痛い。ものすごく強い力で掴まれていてとても逃げられそうにない。

「大人しく言うことを聞けば殺さないでやるよ」

「離してっ」恐怖に駆られて叫ぶと、彼は不機嫌そうな顔で私を見下ろした。

「わかったよ。じゃあこうするか。」

「え?」

彼はナイフをおもむろに取り出した。そして、私の心臓に向けてナイフを振り下ろした。「きゃあああっ!!!」

反射的に目を瞑って身体を守ろうとする。けれどいつまで経っても痛みはなく、代わりにガギッという音が耳に届いた。おそるおそる目を開けてみると、目の前には見慣れた背中があった。




「大丈夫か?」

振り向いた彼の手の中には血濡れたナイフが握られていた。ああ、彼が助けてくれたんだ。だがよく見ると彼は胸から血がダラダラと出ている。

「さよなら。朝日。」

大翔君は小さく笑ってそう言った後倒れた。

駆け寄ると、

「すまん。多分死ぬ。」

「どうして!?」

振り返って彼を見ると、辛そうな顔をして微笑んでいた。

「もう……間に合わない」

「そんな……っ!」

「愛している」




次回予告「遂に伏線回収()。そして完結へ。」

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