体育祭 第1種目 準備運動第二

「聖母どののご意向なら体面も立つ。さっそく排除しよう」


「って朱腿しゅももっち。何で同じワッペン付けてるっすか。なぜにぷろれすごっこ組」


「朱腿っち…いや、貴様はそれでかまわんか。こっちの台詞だ。お前と対決するために加入したのに。同じ組じゃ無意味じゃないか」


 むむむ!しゅももちゃんが味方だと。これも手長の謀略か。なんと恐ろしい。もっともぎゅもぎゅせねば。


「むっ。聖母どのが尊い仕草を。祈らずにはいられんな」


「おい戦え朱腿てめぇ」


「そういえば貴様、泥水どのは耳長に珍しく戦闘タイプと聞いたが他に居ないのか?初めて聞くが」


「ああ、私、先祖返りっすからね。うちんとこは大分昔にエルフに特化して、お陰で調達に使うスキル枠全部よそに割いちゃったもんで。《偽装》とか《論理的思考》とか《かしこさUP》とか」


「ああ、知的生命体云々の。なるほど。氏族ごとに扱いが違うのはスキル構成で差が生まれたからか。勉強になるな」


「ああ、そうそう。そうっす。私の立場が危うい原因とも言うか。まあおかげで私は丸耳とも共存できるんすが」



 そろそろ戦って。地獄絵図になってるから。



 加持莞爾の職業は《暗黒神官》。これは他の一族によっては《巫女》、《霊媒》系の名前が付いたりするがやってることは大体同じ。良くも悪くも明け透けな波動覇道葉堂ソリッドハード家の強固キョウコちゃんなんかは《犠牲》に就いている。どういう職業だよそれ。誰だよ《犠牲》の代表取締役は。あ、神様か。



 この《神官》その他同種の職業は歌やら芝居やらで神話人間だった頃を再現して記憶を思い出させ氏神様から力を借りることで攻撃したり回復したりする。莞爾ちゃんの場合は触手とか出す技というか御業がこれ。塔内に住む神様の力を借りてるので冒険者学園帝国領から離れてしまうと力は弱まるが。


 その為いつ何時だって亡国の危機である冒険者学園帝国の生徒臣民には、己の力を恃む戦士系ジョブが人気だが、この神官系ジョブがなくなっては諸々困るので適度に優遇策を採っている。


 だって血族のコミュニティが廃れてしまうと人間だった事を忘れてただの神様になってしまうのだ。そうなるともう哀れ。神罰虐殺られて良い武器防具に生まれ変わるしかない。


 基本一子相伝の学園帝国で血族なんて直系しか残らんだろと思った?まあ、戸籍の人数と実際に現地に住んでる人数が違うなんてどこの国でもよくあること。我が国の切り札の一つであるが機を逸すると手札で腐る、そんな劇薬(ババ)どもの末端組織というか冒険者学園帝国への出先機関が彼女ら《神官》たちなのである。



 そうこう解説しているうちに泥水ちゃんがちびっこ生徒どもを救いだし、莞爾ちゃんと朱腿ちゃんは一対一で睨み合い。我、まさかの見逃しである。


「なんとも鮮やかなお手並みでちた」


 とは膝上幼女の古女房ちゃんの談。ムカついたのでもっともっともぎゅもぎゅする。


 朱腿ちゃんが大段平を大上段に構え、莞爾ちゃんも長巻きを天突く様に掲げると、


「むっ、あれは両者、穢田一合流の位!」


 と、絶壁少女の死に水ちゃんが解説者ムーヴかまして来たのがイラついたのでゼペゼペしてみたけど絶壁だったので余り楽しくなかった。謝罪と賠償を要求されたので爆笑してたら、普通に痴漢行為なので追って沙汰がありますと鮫肌淑女の誰渦さんから宣告されたので我ももぎゅもぎゅされてしまうことが確定した。我にゼペゼペ?無理だよ。あれは清きプロレタリアート胸にのみ許された行為なんだ。憐れ胸。


 死に水ちゃんが思わず叫んだこの穢田一合流というのは、大上段から大音声で大太刀を対手に叩きつけるという一ノ型、のみしか存在しないという凄まじい流派なのだけど、ひたすらそれだけを体に染み込ませる事でいざ実戦という時にも稽古通り人型のモンスターでも人型の村人でも躊躇なく頭をかち割れるということで度胸づけのために穢田院やその出身氏族のみならず、広く冒険者学園帝国で教わる者が多い流派なのである。


 ただ、一ノ型のみであるために同派同士の立ち会いはお互いの頭をかち割って絶命という馬鹿な事が起こるので、同門流派と当たる場合は互いに別の手段を用いる候う事、と穢田諸法度取扱い説明書に注記されている。


 本当に一合流しか学んでこなかったバーサーカーがたまにいるのだけど、悪い意味で人を殴った事がない連中だから、取説の注記を守って武器を用いずに拳をハンマーの様に振って、つまりはいつも通り、人の頭をかち割る時の動きで殴り合ってるのを見かけた事があるのでこの一合流はいつか禁止令出そうと思ってる。得物替えただけで手段同じじゃねぇかバカ(※バーサーカーの略)がよ。



 うお、いつの間にか朱腿ちゃん莞爾ちゃんが得物替えてた。あぶねぇまた見逃すとこだった。


 御法度に従い、一度仕切り直した朱腿ちゃんは鋲付きの錆色の臑当て、莞爾ちゃんは金属製の錫杖を身に付けていた。


「あれはおそらく、穢田蹴脚術と穢田杖術ね!リーチは有利だけど、穢田の杖術は神官系生徒用の護身術としての側面が強いわ!逆に蹴脚術は対人…対人型モンスターに特化した殺人術…!特に穢田朱髀すももは"術"から"流"に変えるかもしれないと言われてる達人よ。つまり独立して新たに朱髀家を立ち上げるかもしれない若手冒険者のエース!きっと、彼女がこれから見せる蹴脚術は"穢田朱髀流"と呼べるほどの別物になるわ!!いかに加持莞爾が木苺心子の"最強パーティー"と言えども分が悪い…さて、どうするかし」


 うるさい!!試合見逃すだろ!長く喋っていいのは我だけなんだよ!!!ぜぺぜぺぜぺぜぺぜぺぜぺぜぺぜぺ


「ぎゃあああああああ」


「「チェストォォロォベェェリィィィィィ」」


 こちらがゼペゼペ交わってる間に大音声で生徒臣民二人が交わる。


 下段に構えた錫杖に触手が捻れ絡まりながら大上段に持っていく。


 何かの魔術か臑当てが文字通り火を噴き加速、利き脚を地面と垂直に持っていく。


 そのまま杖と足がバチコンとぶつかりあい、


「「いや、結局頭かち割る軌道じゃねぇーーか!!」」


 と、絶壁とともに我、大音声。


 鮫肌だけしたり顔で、うむうむそれでこそ穢田流、といった風情だった。サメサメしておいた。

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我が試練の塔! 感 嘆詩 @kantananaomoshiro

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