第3階層 学園帝国 廊下

「スリングショットっすか。え、冒険に要るっすか」


 いや、確かに微々たる戦果しか挙げられないだろうけども、我が出来そうな支援攻撃が現状それしかないし。それ使えば敵の牽制とか、ものによっては泥水ちゃんを狙えばバフかけられるかもしれないし。良いじゃん暇なんだよ戦闘中。何かやらせろよ。


「うーん。まあ確かに一定の効果はありそうっすね。とりあえず、既製品を購買部で買って試すっす。経費で。是非とも経費で」



 すっかり外見も人でなしとなり、内面に追い付いてきてお目出度い限りの泥水ちゃんをお供に廊下を練り歩く我であるが、行進を同胞に遮られてしまった。何だキサマ。不敬ぞ。


「貴様、何だそのザマは」


 厳しい目で泥水ちゃんを見て、厳つい顔でこちらを見た。ずいぶんマッシブな女子だな。


「彼女は戦士の中の戦士だ。どうしてその在り方を歪めた巫士臥土ふじふしど


 む?我を知っている上でのその不遜な態度。見上げた根性である。 


 ふむ、生徒名簿で見かけた顔だ。たしか名前は、、、穢田朱髀。中途入学生だったな。


 ここは身分というか、生まれもっての格の違いというものをわからせてやろう。


「ふっ、それは彼女との契約で、君には関係のないことだよ。しゅももちゃん」


「あー。聖母どの。名前を把握してくれていることは臣民として光栄だが、私の名前はすもも、と呼ぶ。名前など記号でしかないと私も思うのだが、《母上》がその辺りうるさいので」


「…ふっ、それでしゅももちゃん。何だったかな。在り方を歪めた。そういう話だったね」


「いや、まあ別に良いのだけども」


 すっかり毒気を抜かれたす…しゅももちゃん。我の交渉術が冴え渡るぜ。


 そして泥水ちゃん、我らの会話カチ無視で購買部行くのやめて。スリングショット買うって言ったけども。




「いやあ、一種類しかなかったっす。とりあえずこれで。具合がよさそうだったらあのサメの皮でつくってもらいましょーよ。あ、お話し終わったっすか。朱髀さん」


 いや、泥水ちゃん来るまで待ってたんだよ。お前が共通の知人友人なんだからこっちは会話弾まないんだよ。


「見苦しい姿だな。貴様」


「ああなんだてめぇこの野郎。随分なご挨拶だな。ぶち犯すぞ朱髀てめぇ」


 キレるのが早いよ!さじ加減を考えてよ。ロールプレイロールプレイ!


「なんの騒ぎですか?廊下は私戦(しと)らない。そこの貼り紙にも書いてありますよ」


 一触即発の雰囲気の中、それを塗り替えるおぞましい気配が廊下の奥からやって来た。


 やんややんやとケンカを観戦するつもりだった生徒臣民どもが静まりかえる。その姿はまさにヘビにのまれたかえる。ゲロゲーロ。あ、恐怖で吐いたやついる。哀れ。


「神殺し……先生」


 しゅももちゃんが声を搾り出す。何とか取って付けたように敬称をつけたが、おぞまし気配女は不快そう。


「またそのあだ名ですか?皆さんやめてほしいものです。それは自分の実力に自信も誇りもありますが。神を殺したなどと、畏れ多い」


 現地の生き物から神と崇められ恐れられる化け物たちを何柱も殺してきた女は確然とのたまった。隔絶した実力の差を表す一言に愕然とする一同。


 神罰虐殺菜夏野摘実しんばつぎゃくさつななつのつみ大先生。


 自主学習というか、自己鍛練が基本の、つまりは母親だとかを除いて明確な目上が存在しないフランクさが売りの我らが冒険者学園帝国において数少ない《先生》の尊称を持つ化け物。


 生徒思いで物腰は柔らかいが、その気配の前では意味のない気配りだ。


「事情はわかりますよ?穢田朱髀(えでんすもも)さん。全ては本人が納得して決めたことです。心配する気持ちもとても大切です。それとは別に、お友達であるならば彼女の選択を尊重してあげることも、大切だと先生は思います」


「…はい」


「で?戦士の中の戦士を辱しめたことについて、肉ポーションからは何か釈明はありますか」


 はい?…はい!?肉ポーションって我のことか?おいぃ!差別用語だぞ先生のくせに!


「あら?回復特化型の生徒臣民への蔑称として使えば問題になりますが、あなたは正真正銘肉ポーションじゃないですか」


 物腰柔らかに罵倒を浴びせられた!泥水、やっちまえ!敵わなくても構わねえ!一太刀、せめて一太刀浴びせてくれ!


 泥水ちゃんが前に出て、先生に向く。一矢報いろ!そこだ!やれ!


「あなたもですよ?お友達の心配する気持ちも酌んであげてくださいね。忠心は美徳ですが、お遊びで自分を偽るのは悲しいことだとおもいます」


「肝に銘じておきます」


 そこは命じた我が叱られるべきでは


「あなたは言っても聞かないでしょう?クソ肉ポーションが」


 罵倒!物腰明らかな罵倒!!




 台風一過、神罰虐殺られることもなく、無事に防災出来た我々に最早やり合う気力もなく、


「消化不良だが仕方がない。ケンカの続きは体育祭トーナメントまで取っておくよ」


 しゅももちゃんが変な設定出してきた。なんだそれ。お約束のバトルトーナメント的な?


「肉ポどのは」


 おいぃ!


「すまん。聖母どのは知らないのか。荒事に関わらない臣民はそういうものなのかも知れないな」


「あ、ちがうっす。体育祭トーナメントのときは間違って死なないように《神乳》の服用が解禁されるから、聖母さま期間中全員に配るためにずっと搾られててそれで知らないんだとおもうっす」


 おいぃ!マジかよ。そういう大搾乳時期が一年のうちに何度かあるんだけど。大体のイベント見逃してるんじゃないの。


「期限内に来ないから拉致られて搾られるんですよ?連絡帳をきちんと見なさい。今回の体育祭観戦を希望するようでしたら、今のうちに全員分搾ればギリギリ間に合います。さ、畜舎に行きましょうか」


 実はまだ居た神罰虐殺大先生。哀れ臥土ふしど君。記憶はここで途切れ、場面は体育祭トーナメント当日へと移る。冒険をさせてよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る