第3階層 学園帝国 体育館

 目覚めると体育祭トーナメントのvip席。来賓のお歴々に挟まれ、開会の挨拶を待つばかりであった。



 左を見れば、暴力的な乳の同胞。両肘両膝から先が無い、見るからに力を持たぬものであるが、彼女を見て侮るものは誰もいないだろう。その水蜜桃というか西瓜糖とでも言うべきたわわを煮詰めた様なお乳と、それと同じレベルで凝縮された殺意が見るものを恐怖に陥れる。


 水の中に突然沈められたような、息もできぬ濃密な殺意は、四肢がないハンデなどまるで意味がない。這いずりながらでもこちらの喉笛を噛み破るであろう。その姿を幻視する。見える。見えるぞ。ああ、靴跡ならぬ乳跡が地面に!恐るべし!恐るべし!這いずりというかパイず


「あらあらまあ、また何か面白いことを考えているのカシラ?聖母サマー?」


 トゲトゲの歯並びと死んだ魚のような感情の見えない瞳で笑いかける、パイよる混沌。


 汎人類同胞公国神祇官、冒険者学園帝国理事長、穢田誰渦えでんすいか


 穢田院の院長で、中途入学生徒の受け皿になっている。しゅももちゃんとかはよそで戦災やらなんやらで孤児になったのを、学外部隊が誘か…勧誘してこの院に入った口だ。


 殺意に塗れているが、デフォルトがこんな感じなだけで、別に生徒臣民に害意はない。むしろ慈愛の人である。鮫みたいな目と歯で笑いかけてくるので邪悪な人にしか見えんが。



 前、というか膝上を見れば乳だけアダルティーなちびっこが座っている。白いシンプルなエプロンにピッツェリアで被ってそうなベレー帽らしきものに白いマスク。手にはゴツい鍋つかみと、そのシルエットはさながら給食係である。何なんだろコイツ。ピザ的思考のもと、シチュー的な手法でもって、裸エプロン的表現をもたらすのだろうか。


「違いましゅ。軍事学的しこうの基、冶金学的しゅほうで以て、防疫学的ひょうげんを齋すのでしゅ。嘘だけど」


 嘘ついた!平然と。


 七王連合王国伯爵位、冒険者学園帝国名誉学長、フルフルリリス・古女房=ホープレスネスロープイン


 手長共は学園内でこそ同胞より数が少なく、耳長共より権力から離れている、半端な立ち位置であるが、国外にはわんさかいる存在である。そして大概が担当するものにしか興味も倫理も働かない。国交断絶状態の今でも商人職人の横の繋がりというやつで内外に影響力をもつのだ。

 

 伯爵とかいってるが、手長共の国は担当の支援を円滑にするために用意したバーチャルオフィス的なもので、7つある王国全部合わせても、治めてる土地なんて大した大きさでない。いや、担当に必要だと思って立国するイカした奴が少なくとも七匹はいたという時点でトチ狂ってるが。



 そして右を見れば、どいつもこいつも巨乳ばかりなんなのよ。と僻んでる絶壁ティーンエイジャー。


 旧エルフ神聖帝国領領主、冒険者学園帝国事務局長、シャングリラ死に水。


 しかし若いのは見た目だけの話で、泥水ちゃんなんかは死に水ちゃんの耳孫じそんにあたる。耳長だけに。血が薄いので確実に死に水ちゃんが泥水ちゃんの死に水をとるであろうけども。


 しかし個体数の少ない耳長であるが、泥水ちゃんとは似ても似つかぬ。なんだろ。何かツンデレそうという印象だけある。あれか、埋没しそうというか、社会に溶け込めそう顔というか、俗な感じが共通点か。寿命が長い平凡。長年耳学問ばかり人から齧って貯えてそう。耳長だけに。どうした。笑えよ。


 旧エルフ神聖帝国は、我が同胞が公爵扱い這々の体で従属国的自主独立を手に入れたのと違い、尾長共に国を吸収合併されているが、つまりは尾長共にとって明確に養護すべき国民になったということで、我らと奴ばら、どちらの発言力が職員会議で上かと問われると微妙なライン。一長一短である。

 

 そもそも同胞、手長、耳長それぞれの刺客というか顔役の役職も理事長、学長、事務局長と名称が違うだけで業務内容は同じ、つまりは同じパイを分け合う仲良し小好しの痛し痒し。政治とは難しいのだ。各顔役の顔よりおっきなたわわまつりと同じ、治まりがつかない。一名だけお通夜でお祭り自粛中。セルフ死に水をとっているが。


「憐れむね!」


 刺激的な自己紹介だね。憐れ胸。


「違う!言い間違い!憐れむな!腐りゆく定めの人の子の分際で!泥水が成功すれば何とでもなるんだからね!多様性さえ生まれれば、埋もれるような凡庸さがどうのと言わせないわ!天才集団耳」


 あ、開会式始まった。


「…一族って、聞きなさいよ!」



 流石は冒険者の集まり、お歴々の挨拶もそこそこにさっさっと進行していく。そして式の最後に発せられる選手宣誓は、冒険者学園帝国支配者の裔。


 竜帝国皇太子、冒険者学園帝国生徒会長、ドラキュラ☆キララ


「アンギャオオオアオオオア。アアオオア」


 ふむ、あそこはあんだけ人間混ぜてもまだあんな調子か。


 初代竜帝が己の試練の塔《竜帝国の塔》で血肉を食らいすぎて正気を喪い、竜として狩られ現在の国宝の素となった話は、冒険者学園帝国内外で有名である。


 彼らの狂気は未だ癒えぬ。

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