第1階層 我が試練の塔 1層 決闘者対影盗人
シャドウウォーリアさんを収納ポーチに詰めて急いで他の二体を追いかける。
普通の冒険者なら待ち伏せをかなり警戒するだろうが、何しろ何をしても死なない。集中はしているがその手の気配りはおざなり。足取りも軽快だ。
「まじ信じらんないっす。はらわた引きずり出してお互いのを食わせてやるっす。」
うーん。グレーゾーンだなぁ。まだ引きずってるのか、はらわた煮えくり返っている。
同じ下衆でもベクトルが違うんだよな。そっちも嫌いじゃないけどさ。ちゃんと尽くしてくれるし。
隠し通路を雑に抜けると見たことのない部屋に出た。かつて一人コツコツとマッピングした図面の向こう側。入り口の転移陣がある小部屋と出口がある小部屋の狭間をぶち抜く隠し部屋にたどり着いた。
今さら知った。こんな超ショートカットコースがあるなんて。超ショック。初めてのデートのように、念入りに下調べしたのに。
丸い飛び地が点在し、その下は針の山。鉄球が幾つもブォンブォンと振り子のように荒ぶっている。
その向こう側にマジシャンさん。シーフさんは何処へ行った?
「そぉこぉかああああ」
うお、イライラのし過ぎでついにトチ狂ったのか泥水ちゃんが巨大鉄球に突っ込んで行った。
鉄球を繋ぎ止める太い鎖の陰から白銀の煌めき。泥水ちゃんは無視して刺さるままにしてそのまま鉄球に飛ぶ。
何とシーフさん、そんな所に隠れていたのか。全然気づかなかった。スキル《ハイディング》 とかそういうの使っているのかもしれない。
泥水ちゃんの凶刃が、あわやシーフさんの首に届く、瞬間鉄球が爆発した。爆発は指向性をもって泥水ちゃんだけを襲う。火薬と共に詰め込まれていた鉄片で全身がズタズタだ。
我も死なないんだから庇わなくても良いのに。
爆発の推進力も利用してマジシャンさんのいる向こう側に着地するシーフさん。
影みたいな肌のせいで分かりづらいが血を流している。どのタイミングで攻撃したんだよ。泥水ちゃんやばいね。
「おらぁっ」
血みどろ鉄片を引っこ抜いて五指に挟み投げつける。強靭な筋肉と柔軟な関節と狂獣の神経でもって向こう側まで届かせる。
シーフさんはウォーリアさんと違って戦闘向きでない。近づかせるつもりはないだろう。だからいっそ近づかずに倒す、と。
途中から何か白っぽいの投げてるなぁと思ったけど見なかったことにする。泥水ちゃんが投げているのは鉄片です。カルシウム片ではありません。
シーフさんも身を呈して庇う。その目は強い意志が、正義の光が宿っている。仲間思いだな。盗賊の真似事しているくせに。いや、冒険者パーティーの真似事をしているのか。
彼らは我らにとってはフロアボスみたいなものだが、彼らにとっての我らも倒すべきボスという体、設定、なのだろう。
さしずめ我は辺境の村から生け贄を要求する邪神官で、指図を受ける泥水ちゃんは侍従か魔獣か。
だから彼らはゴブリンさんたちのように考えなしに戦わない。こちらを仕留めるための、何か作戦があるはず。
ふむ、ウォーリアさんもシーフさんもやってることは時間稼ぎか?
マジシャンさんはずっと、援護するでもなく杖を握り締めたままだ。
まあ、良い。所詮は真似事。不死の我らとリスポーンする彼らで、使命を帯びて命を懸けた冒険者のごっことは滑稽であるが、付き合ってやろう。
シーフさんがとうとう倒れる。死と連動して鉄球や針の山が消え、飛び地の間が埋まる。普通の部屋だ。マジシャンさんは背中を向け通路に逃げていく。
「あとはお前だけだカマ野郎。先にイッちまった竿兄弟の代わりに私が掘ってヤるよ…」
泥水ちゃんが口でクソを垂れながら追いかけていく。本当に言葉使いが汚い。嘘だろ信じられない。
本当に信じられない。マジシャンさん男の子だったんだ。全然見えなかった。
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