第1階層 我が試練の塔 1層 決闘者対影切札

 さて、マジシャンさんにそのまま第1階層を彷徨かれたら厄介だろうけど、泥水ちゃんの全力疾走なら問題ないだろう。疲れとか痛みとか無視して走れるからね。本当にどういう神経をしているのか。



 我はゆっくり歩くか、と通路へ足を踏み出す瞬間、お尻に衝撃が走った。



 勢いそのままでんぐり返しで後ろを見れば、猫の仮面をつけた派手な、シャドウさんはみんな陰影の濃淡みたいな色なのでわかりづらいが、派手であろう服を着た男がコミカルに立っていた。



 なるほど四人目のパーティーメンバーがいたのか。


 なんて呼べばよい。クラウンさんかな?



 ずっと、仲間が殺されても耐えて耐えて、さて、このチャンスを得て何をするつもりなのかな。大した道化だ。我を殺しても特に得にはならないけども。骨折り損のくたびれ儲け。泥水ちゃんにくびり殺されるがよい。



 誇張されたアクションと共に、哀れなピエロさんが指を鳴らすと、まあ不思議。目の前にはマジシャンさんが。



 なるほど、隊列を入れ替えたのか。って納得できるか。ゲームと現実を混同するな。



「《タイダルウェイヴ》」


 


 マジシャンさんの杖から大量の水が溢れだした。この魔法のために、ずっと集中していたわけだ。洗濯物の気持ちがわかってしまった。今度から手揉みで優しくしよう。



 このまま行けば入り口の転移陣に一直線だ。やってくれる。勝てないからってリセットボタン押してきやがった。


 


 なるほど、道化師さんがジョーカー切り札なわけね。洒落が効いてる。



 痛み分け…と言いたいけどもここ2日間を無駄にされるのは癪に障る。洒落にならない。





 必死の犬かきも虚しく恥辱の生還、という所で何かが我の胴を蛇のように絡めとる。泥水ちゃんだ。流石、名前に相応しく土石流もすいすい泳ぐ。



「ふがふがふがっふががあっ」



 鉄串くわえてるせいで何言ってるかわかんないけど、どうせまたクソッタレな信じらんない罵詈雑言の類いだろう。



「抱きついてろっ、パコってるみてぇになっ」



 ほら、これだよ。所構わず脱糞しやがる。しかし我に策が無いのも事実。腰に足を絡め肩甲骨にしがみつく。



 くわえていた鉄串を壁に突き刺し、それを基点に腕力だけで足を天井へ向ける。…そのまま天井に逆さまに立った。何だこいつ。



 見ると足の指を万力の如く締め付け鉄串を固定して、それを天井に突き刺していた。



 さっきまでは鉄串をスパイクにして激流を渡っていたのか。そして今は天井、と。



 逆さまから更にスリングから放たれた石の如く遠心力によって中空を飛ぶ。とてもスリリング。



 異形の剣が閃いて、穏やかな顔の生首が宙を舞った。



 みんな良い顔で死んでいくなぁ。


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