第1階層 我が試練の塔 1層 決闘者対影戦士

 さて、いっぱい食べて寝て。第1階層に籠って1日経過したのでご褒美タイムだ。ユニークモンスター討伐の時間だよ。



「ぐえっぷ。え、ユニークモンスターっすか?1階で出るもんなんすか」



 普通は出ないね。我が試練の塔は出るけど。各階層で出るけど。



「各階層で…っ!確か倒すと掲示板に乗るんすよね?評価ポイント貯まるっすよね!?おお、マジで生徒会長狙えるかも」



 いや、3年間オークロードさんと遊んじゃってるし、今さらトップ連中には追い付けないんじゃないかな。っと思ったけど言わないでおこう。



 泥水ちゃんだったら無理無謀だと気付かずにアホ面晒しながら上位入賞しかねないし。



 本当に良い拾い物をした。我の最高のパートナーになるかもしれない。



 それじゃあ、作戦会議をしようか。我も過去に観察したことがあるだけだから、細かい情報はないけど





 さて、我が一味は第2階層に続く小部屋までむかっている。我が第1階層で籠って1日経過すると、その小部屋にユニークモンスターが現れて2階層行きの転移陣が作動しなくなるのだ。



 そうなるとユニークを倒すか、一度塔から出なくてはならない。当然今回はユニーク討伐をしてもらうつもりだ。



 貧乏性の泥水ちゃんも今回は拳鍔シミターをつけ、準備万端、意気軒昂である。




 小部屋に入ると待ち構えていたのはシャドウさん三体。このシャドウさんというのは我ら冒険者を模したモンスター。全身が濃淡のある影のような色合いなので同士討ちにはならないからそこは安心だ。



 第1階層ユニークのシャドウさんの内訳はシャドウウォーリアさん、シーフさん、マジシャンさんのバランスがとれた三体。《神乳》とバフ系魔法の累積があるが、泥水ちゃん一人で勝てるかな?



 小部屋に入った途端、泥水ちゃんとウォーリアさんが同時に駆け出す。



 泥水ちゃんが猫の手で殴りつけるような挙動で刃を振る。それに合わせるようにウォーリアさんも両手で剣を振った。



 刃と刃がぶつかる、という寸前で泥水ちゃんは握り締めて作った猫の手を思い切り開いた。



 ただグーをパーにしただけでシミターの刃は後ろを向く。



 ウォーリアさんは剣で受けそのまま弾き返す算段だったのだろうが空振る。



 泥水ちゃんは開いた手を捩って手の甲をウォーリアさんに向け、そのまま腰の捻りも加えて前につき出す。



 切っ先がウォーリアさんの肩口を浅く裂く。掌を返しながら退くことで傷口を抉りつつ一度距離を取った。



 抜け目なく隙を伺うシーフさんへの威嚇も忘れない。



 おお、これだよこれ。昨日までの優しくて血みどろな処理作業とは全然違う。我は満足。





 張り詰める空気。流れる血潮。限界まで溜め込んだ緊張と四肢が爆発し、ウォーリアさんが大音声で迫る。



 ウォーリアさんの剣を鉄串で捌き、シミターで素っ首をはたく…寸前でウォーリアさんの万力のような左指がシミターを握り締めた。



 泥水ちゃんのお株を奪われた感じだ。痛くないのかな。前衛ってみんな平気であんなことするのか。



 すかさず、泥水ちゃんは小指と薬指で挟んで隠し持っていた鉄針を投げた。



 毒でも塗っていたかまたは神経を狙って撃ち抜いたか、指の力だけで投げた鉄針はウォーリアさんの肘辺りに刺さり、たちまち彼は握力を失ってシミターの刃から離れた。



 ステータスやスキルの伸び代は、どう頑張ってもBランクが限界の、生徒臣民にあるまじき凡人であるが、なるほど、凡人というのは頑張ればこれだけの技術をはきだせるものなのだな。



 泥水ちゃんの指は本当に腕4本分の働きをしそうだ。





 すかさず手首の柔かさだけでシミターを首に通し、だめ押しに鉄串を押し込む。



 よっし。次はどっちを狙う…あれ?残った二体に目をやると、ちょうどマジシャンさんをお姫様だっこしたシーフさんが、突然現れた別の通路に入って行くところだった。ニヤリと悪どい笑みを浮かべて去っていく。



 隠し扉?なんだそれ。そんなもんしらんぞ。



 慌て追いかけようとする泥水ちゃん。しかし、倒したはずの、腕を麻痺させたはずのウォーリアさんが万力のごとき力で掴んだまま絶命しており、脱出を許してしまう。戦闘中ずっと引き結ばれていた唇はいぶし銀に歪み、清々しい死に顔である。ウォーリアさんは見事、役割を果たしたのだ。



「この、くそがぁぁぁっ」



 おお、泥水ちゃん素に戻っちゃってる。ロールプレイ忘れずに。ロールプレイ。



 まさか逃げられるとは思っていなかった。第2階層への転移陣を封じているくらいだからこの小部屋を動かないと、根拠なく思い込んでいた。反省だな。


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