第1階層 我が試練の塔 1層
さて、工房棟を出た我が一味、我と泥水ちゃんはついに我が試練の塔・第1階層に入った。
我が第1階層はいわゆる迷宮型で、出てくる通常モンスターはゴブリンさんとコウモリさんのみで非常に弱い。
スキル《神乳》の強い恒常性によってろくにレベルの上がらない我でも辛勝できる。
とはいえ、戦闘に参加したところで何の足しにもならないので、移動中も戦闘中もひたすら操式魔法や踏式魔法、口式魔法を駆使して泥水ちゃんの能力をかさ増しするのが我の役割だ。
筋トレも魔トレも全く役に立たない体なので大魔力を消費して急激に能力を上げる、ということは出来ない。
しかし体力魔力の回復は早いので、微弱な効果だが延々累積するバフ系魔法を四六時中かけ続けることができる。
一度塔から出ると累積分は消えてしまうけどね。
さて泥水ちゃん。あの異形の拳鍔シミターでどんな奇抜な戦いをしてくれるのかと楽しみにしていたのだが。
「え、いやっすよ。打ち合って刃こぼれとかしたら怖いっす」
例の拳シミどころか、下手に受け止めて金属がへたるのも嫌がって両方の手甲を外し、袖も捲ってすべすべの肌をさらしている。
どうせ《神乳》で治るのだからと、血塗れで白羽取りするのである。
時にゴブリンソードの錆びた根元を掴み、時にゴブリンナイフの
例の如く泥沼のような瞳で、鼻唄混じりに次々収集ポーチへと詰め込んでいく。
アグリッパ某の意味深な言葉を理解した。
一々痛い思いをするなんて割りに合わない?でも装備より体を消耗させた方が経済的で合理的だよね?次の戦闘までに傷治ってるし。
どんな理屈だよそれ。
なるほど、3年間、Lv30の化け物と戦い続けてきたやつがまともな神経をしているわけがない。
愚鈍ゆえに愚直に折れず曲がらず挑戦し続け、鈍感な神経はおかしいと気付かず常識から脱線し続け、今日かかる次第に相成ったというわけだ。
無能め糞便めと馬鹿にしていたが、ここまでの馬鹿とは思いもよらなかった。
「凄いよ泥水ちゃん。惚れた。今晩は我がお嫁さんになってあげるよ」
「何かいろいろ無茶だと思うっす!?」
無茶苦茶なのは泥水ちゃんだと思うけどね。
結局、拳シミの活躍を見ることができずに安全地帯まで着いた。そのままご飯の時間に突入だ。
試練の塔は元々が丹錬のためのシステムだ。日々の食事もまた、丹錬に欠かせないものだ。
そして何と学園外の常識では驚くべきことに、試練の塔では内部の生命を取り込むことで、微かだが食べた者の能力が増すのだ。
初代竜帝が己の塔内で竜の血を浴び続けて力を増し、現在の尾長共の祖となった。というのは内外を問わず有名な話である。
しかも我が恐るべきスキル《神乳》は、塔内の食事と併せることで能力の上昇を劇的に高めることができるのである。我には恒常性が働いてあまり効果はないが。
さて、今日のメニューはゴブリンとコウモリのぶつ切りクリームシチューだ。収集ポーチの肥やしになっていた巨大寸胴鍋をやっと使える日が来た。仲間がいるって素敵だなあ。
「何これ溶鉱炉!?聖母様、こんなに食えないっす!」
大丈夫。我が畏れるべき《神乳》のおかげで、食べた端から消化されていくから何杯でもおかわりするとよい
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます